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第十話 夜明け

 とりあえず、彼女の話から確信に変わったものもある。彼女の親はアルナシオン派だ。

 彼らにとって子どもというものは小さな大人であり、真っ当な大人が厳しく矯正しなければ道を外れた人間になる……と、信じられているからな。だから、平気で暴力を振るう。


「……そうそう、大人になってようやく魔法が使えるようになったやつもいるぞ。気を落とさなくてもいい」

「えっ……そうなの? だぁれ?」

「さっきいたロン毛おじさんだ。16歳の時に突然できるようになったらしい。最初上手く扱えなくて水銀でドロドロになったとか。まぁ、僕は4歳だったからよく覚えてないけど」

「……そうなんだ。わたしにもできるようになるかな」

「水銀は彼しか使えないよ。というか、あんな危なっかしいもの使わない方がいい。無意識に人を殺すからな」


 多分、アルジェントの人数が減った原因の二番目に挙げてもいいくらい殺している。と、いっても5人くらいである。

 今は自他共に対策できるようになったからまだ許されているが。


「アンヴィ、何も心配しなくていいんだよ。僕が最強の魔術師に仕立て上げてあげるからね」

 僕からギュッと強く腕で包み込むと、それに応えるように彼女も抱きついてきた。

「ディマだいすき!」

「ふぇっ!? あ、あぁ大好きだよ……」


 まさか、大好きと言ってくれるとは。嬉しいような、悲しいような。

 彼女のぬくもりを感じながら、僕はゆっくりと眠りについた。

 

*


 日は残酷にも昇る。この幸せももうすぐ消えゆくのだろう。

 そう思いながらも彼女を起こしてあげた。

 

「アンヴィ、朝だよ。おはよう」

「……まだ眠い」

「最強の魔術師になりたいなら、早起きしないとなれないよ?」

「……じゃあ起きる」


 彼女は目をごしごしとこすりながら布団から出ると、不機嫌そうにこちらを見た。

「ふぁぁ……こんなに早く起きるの?」

「こんなにって言っても、もう6時だけどね。遅い方だよ」

 靴を履きながら答えると、彼女はペシペシと長い袖の部分で叩いてきた。


「ごーはーんー! おなかすいた」

「あー……ご飯……。ちょっと待っててね」

 まだ彼女のことを皆に伝えてないし、食堂に連れて行ったら大変なことになるのは目に見えている。

 だが、何かしら食べさせないと弱ってしまう。何とかならないものか……。


 ふと、脳裏にあの男の存在がよぎる。 

 そうか、メルクリオに食事を持ってくるように頼めばいいじゃないか。

 彼は絶対に人前で食べないので、食堂から毎回食事を取っては部屋に戻っている。理由は知らないけど。

 ちょっと量を多めに取ってきてもらって、彼女の分を賄ってもらおう。


「よし、昨日のおじさんの部屋に行こうか」

「やったぁ! メルクリオに会えるー!」

 彼女はくるくると回りながら元気に跳ねている。さっきまでの眠気はどこへやら。

「廊下では静かに移動するんだよ?」

「わかった!」

 といってもすぐそこであるが。


*


 極力音を立てぬように自室を出て、真向いの部屋に向かう。

 そして、トントントンと三回ドアを叩いた。


「……はい」

「ディマだ」

「……開けないからな。これ以上面倒事に俺を巻き込むんじゃない」

「そのくだり、生まれてからもう何回も聞いたから」


 堂々と単結晶のケイ素を流し込み開錠を試みる。

 案の定、30秒ほどでガチャリとドアノブが回った。

 何度もやられているのに、なぜ彼は鍵の形を変えないのだろう?

 まぁ、変えたところで大して手間は変わらないんだけどね。



 何食わぬ顔で部屋に入ると、いきなり枕を投げつけられた。

「あーもう勝手に入るな! プライバシーの侵害だ」

「いや、事情があって……」

こっちにも事情がある(・・・・・・・・・・)んだよ(・・・)。はい、出ていって」

「彼女のためだからさ、ね? 話を聞いて欲しいんだ」

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