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リゾバイ  作者: 旭珠光哲
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クールと情熱のあいだに

軽井沢…いや、浅間山の東裾野の高原地域に遊園地がある。

長野県ではなく、群馬県なのに軽井沢と云う地名が付いている遊園地なのだが、標高が1200mを越えていて陽射しの強い夏休みの晴れた日でも涼しく、野外に乗り物が並ぶ遊園地でも苦にならない。

美穂は1年前の夏休みに入る直前、逃げるように埼玉からやって来た。春に高校を卒業、そのまま地元の有名お菓子メーカーの工場に就職したものの…生まれてから、ずっと半径10km程度の圏内で人生を過ごしていて、実にラクなのだがラクな分だけ、マンネリ感は誤魔化せない。下る事もなければ、上る事もなく波もない…。私の人生、こんなもん?と思い始めてしまったのである。高校を卒業して大学に行ける…受かる程の頭もなく、運動神経と体力には自信があったけど…アスリートって訳じゃなかった。ここの工場にちょっとした部活があり、入社直後から参加可能だったので高校の部活延長戦をしても良いかなと思ってきた。

だが…何も不満がない、無いことに不安になり、いつもより早く梅雨がやって来て何故か分からない鬱蒼とした日が続くと、ココから出たくて仕方がなくなったのだ。

最初考えたのは独り暮らしだ。

住宅情報誌をちょっと眺めながら気付いてしまったのだが…、日々の生活を母親に依存している状況に、私は独り暮らしして大丈夫なのか?と。

そんな時に中学時代の同級生のSNSに、田舎のリゾートに行ってバイトしている書き込みを発見した。

感じたのは、羨ましさ抜群の楽しそうな姿だった。職場の仲間?と休みに買い出しに行っている時の写真とコメントの書き込みだが、エンジョイしている姿に、中学の時ってこんな子だったかな?と疑問に思うほど。知っているはずなのに、知らない人になっていた。


自分でも知らない、新しい自分になりたい。


今の職場、遊園地がちょうど夏休みに向けて求人を開始していたと云うタイミングもあり、美穂は悩む瞬間さえなく応募していた。

ネットのアルバイト情報サイトから応募して、遊園地の運営会社から翌日には美穂の携帯に電話が掛かってきた。

「質問なんですが…子供は好きですか?」

面接で唯一かと思う質問に、そうでもなかったのに「はい。」と容易く答えていたのは、ちょっとナイショの話である。


病みそうな女の子が山の中にある遊園地に赴任して、遊具スタッフとして生活を始めた。

最初に担当した乗り物が、電動のミニSL。3才のちびっこから大人まで乗れる対象年齢の幅の広い、乗り物として難易度の低い乗り物(遊具)だった。覚える事も意外に少ないらしく、遊具スタッフとして初心者向き?とも言われていた。

「出発~進行!」


「美穂って、遊具いくつ任されてんの?」

園内に9つの乗り物(遊具)と園外になる巨大迷路、自然エリアにアスレチックス、週末限定で開催しているポニー乗馬が遊具スタッフの担当範囲だが、全員が全員全ての乗り物(遊具)を担当出来る訳ではない。個々の遊具はそれぞれルールと手順が異なるため、複数の担当を許可されるにはそれなりに認められなければ、担当数が増えるとはならない。

美穂が2年目で担当しているのは、乗り物8種とアスレチックス、ポニー乗馬のアシスタント。

「ポニーのアシスタントを足して10個だよ。」

ポニー乗馬のアシスタントは、乗馬受付とリーダーが馬を牽く後ろで乗っている子供が落ちない様に支える役割だ。何度もリーダーを担当するためのトレーニングを受けたが、どうも馬達を手懐ける事が出来ていない。

身長も女の子な分だけ低目なので、ポニーの背に子供を乗せるのが至難…。

まだ10代の女の子でアルバイトで遊具の担当を10個もあれば、十分に遊具のエースと言われるが…美穂よりも3ヶ月だけ先に入った40代のおじさんが、1年前の段階ですでに11箇所担当していたので、悔しい部分がある。

「美穂、10個って言いながら納得してないよね~。すごいのに…。」

「すごくはないよー。」

女子寮の誰かの部屋に集まって、毎日の様に女子会をしている。時には、男の子達と食事や飲み会に行くこともあるが、ほとんど寮の中で完結させている。

「美穂はあと2ヶ月半ないけど、冬どーすんの?」

11月の終わり頃で遊園地は夏季の営業を終了してしまう。その前に雪も降りだしてしまうため、遊具のほとんどが冬季の営業がない。そのため契約が11月いっぱいなため、春が来るまで別の所に行くのだが、美穂は3月末まで越後湯沢の駅の中にあるカフェでバイトしていた。

冬に初挑戦したのが、スノーボード。

運動神経と体力には自信がある…と云う以上に、ハマりつつある。今年は…スキー場にするかと考えているが、どこに行くべきなんだろ?と悩んでいる。

「スキー場にしたいんだけど、どこがいいのかなぁ?」

9月も半ばになり、そろそろ冬のスキー場求人が始まる頃である。

山形蔵王、安比高原、猪苗代湖、那須高原、尾瀬、志賀高原、妙高高原…いっぱい名前は出てきたが、知らない所ばかりだった。当然、冬まで居た越後湯沢でも良いのだが…求人探しなら、慌てず探そう。


1年3ヶ月前は、すべて勢いだけで決めて来たとは言えない考えになっている。これも成長って事か?それとも気持ちの変化か?

気持ちの変化と云えば…


子供がすごく好きになっていた。


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