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リゾバイ  作者: 旭珠光哲
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クールと情熱のあいだに

「佐藤さんは、山ガールなの?」

夏休みが過ぎ去り、お土産売店から見えるつり橋の至る所で記念撮影をする人だかりが少なくなったと思える9月も半ば、絢音は明日からの槍ヶ岳登山に向けて1週間、トレッキングシューズに足が慣れるように仕事中ずっと履いていた。

「いいえ違います。」

「でも、連休で槍ヶ岳行くんでしょ?今日も登山靴だし。」

「山ガールでは無いです。」

絢音は新品のトレッキングシューズを履き慣らしをしている訳では無い、もう何度もトレッキングに使ったであろう泥汚れがある茶色…。

「ああ…そうなの?」

売店店舗カウンターの中で絢音に話掛けているのは、お土産売店の店長である。

「普段履く物ではないので、足が慣れるようにここのところ毎日履いているだけです。」

絢音が履いているトレッキングシューズはくるぶし辺りまで隠れるハイカットタイプの夏山の本格登山向けである。素人には重くてソール(底)が硬くて足首まで固定されるので、普段履きには不向きの靴である。普段履かないからこそ、足を慣らしておこうとやっているのを他人から見ると、山ガールとしか思えない。

「いらっしゃいませ~。」

日本一有名とも云われるつり橋から北アルプスの象徴とも言える穂高連峰の稜線が絶景と日本全国からに限らず、海外からの旅行者も観光に来るほどの観光スポットである。その目の前に位置するホテルに併設されたお土産売店には、ヒマになったと言ってもひっきりなしに観光客が店内を出入りしている。

「こちらをお買い上げでよろしいですか?では、こちら…四点、税込4860円でございます。」

電卓を手慣れた感じで弾き、観光客に提示する。

財布から五千円札を出しきるかどうかと云う間に、絢音は商品をお土産袋に入れ終わりお土産として配れように小分け用のお土産袋を4枚手にしている。

「お客様がお土産にお渡しする小分けの袋も入れておきますので、お使い下さい。…では、五千円お預かり致します。今、お釣りとレシートをご用意致しますので、少々お待ち下さい。」

絢音がくるっと踵を返すようにターンするだけで奥のレジに到着してしまう。狭いカウンター内にレジが2台用意されているが、今日はレジ担当者が1人だけ。

「四点、4500円です。」

絢音が税抜きの価格を商品点数と共に伝えると、レジ担当者が税込の価格を絢音に伝えてくる。

「五千円でお願いします。」

お釣りの140円とレシートをコイントレーに乗せて観光客の前に戻る。

絢音のここまでの一連の流れに澱む点は一切無い。むしろ、ムダが無さすぎてデジタル化しているようにさえ思うだろう。

「お待たせ致しました。140円とレシートのお返しでございます。」

「ありがとう。」

その言葉に絢音の表情に少しの笑顔が見えた。

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」

ちょっと深めに礼をしながら観光客を見送る。どんなに忙しい時でも、この間は絢音のこだわりである。

「店長、私…山ガールって言えるような可愛いげないんで。」


絢音は、愛知県の自動車が有名な街に生まれ育った。幼少の頃から、父親に連れられて中央アルプスと南アルプスに登りに行っていた。その彼女が屈指の山岳観光地で過ごすのは普通の事なのか?高校を卒業してから地元で就職したものの、事務職のOLと云う仕事が合わず1年ともたず辞めてしまった。「ここに居たら、合わない仕事しかない」

ちょうど欠員募集をしていたスキー場の求人を見つけ、リゾートでの生活を始めた。愛知には、年間に6週間居れば長い?っていう程度しか帰ってない。3月の末か4月の頭までスキー場で働き、4月の半ばを過ぎるとここに帰ってくる。あまり日常生活で冒険出来る性分ではないので、ココと決めたら他に行く事は考えない。しばらくは1年の中で行って帰ってを繰り返すんだろうと。仕事も職場もだが、すべてが一期一会のような出会いの連鎖だったと絢音は感じている。

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