クールと情熱のあいだに
Ⅰ
暑すぎる夏が過ぎ、○○の秋が似合う季節になっていた。リビングのソファーを占拠するかのように寝転び、スマホを握ったまま窓の外の愛犬が絶好調にくるくる走り回っているのを眺めていた。
「元気だなぁ。」
今年の夏、40度にも迫る酷い暑い夏をソファーとテレビとクーラーの三種の神器が揃うリビングで過ごし倒した。あまり外出もせず、夏の思い出と云えば…云えば、お盆に親戚の甥っ子姪っ子を連れて盆踊りに出掛けた位、何もしていない。
何もしていないと云えば、現在無職。夏のボーナスが出た後にOLの仕事を辞めてから、雇用保険の手当てをもらって何もしていない。そろそろ仕事を探さなきゃなぁ~って思いながら、何もせずに夏が過ぎた。○○の秋もそろそろ冬に向かいつつあり、クーラーはそろそろエアコンと名称を変えつつある。
「純奈!」
母の声が隣室のダイニングから響くが、もうその響きも慣れた。
「うーん、何?」
昨日まで母は妹である叔母さんと2泊3日の温泉旅行に行ってきて、リフレッシュと充電完了で外の愛犬以上に元気だ。
「お父さんが何も言わないから、純奈を甘やかしてるけど…、いい年の娘が実家で毎日ゴロゴロって、お母さん嫌だなぁ。」
とは言われても、仕事を探す気も腰を上げづらい。だが、今日の母はいつもと違う。何か、温泉旅行して知恵を授かったのか?
「いとこの紗理菜ちゃん、冬にスキー場にバイトに行って楽しかったんだって!」
大学生の紗理菜ちゃんは、従姉妹ながら可愛くて明るい女の子だ。そんな愛嬌のある彼女なら、どこに行っても楽しいだろうよ…と、心の中でひがんでみた。
そんな勝手にひがんでいると、母は1枚のチラシを私の顔の前に差し出した。
「紗理菜ちゃん、今年も行くんだって。純奈も連れてってもらえば?」
年下の従姉妹にバイトに連れてってもらえとは…。恥もプライドもない母の発言に、でもアリか…とも思っている。
チラシは求人募集である。
300人の大量募集と云ううたい文句に、少し安心する。選考で落とされる確率は低いだろうし、私同様の新人&未経験もいるだろうと。だが、スキーもスノーボードもしたことがない。寒いのは、そんなに苦手じゃないと思っているけど…どれくらい雪が降るんだろうか?未体験な場所に気後れしている。
「紗理菜ちゃんに聞いた方が早いんじゃないの?」
母には、私の食い付きがバレている。バレている事に恥ずかしい感じはするが、そんな事に負ける歳でもない。