二人の約束
あの後、僕は落ち着きを取り戻し、再び僕の横に座り直した狐耳の少女と月を見ていた。空に浮かぶ満月は辺りを照らし、紅葉が映える神社の景色を完璧に近い形で仕上げている。
狐耳の少女は僕に生きる意味を与えてくれると言ってたけど……どうなのだろう? 本当に……生きる意味を与えてくれるのだろうか?
もし、生きる意味を与えてくれるのなら、嬉しいけど……それはなんだが僕が求めている物と違うような気もする。だけど、それでも縋りたい。今の僕には、小さな意味でも欲しかった。
少女から与えられるような意味でも、欲しかった。
緊張を解すように一息つき、僕は狐耳の少女に話かける。
「……生きる意味を与えてくれるって本当?」
僕の言葉に狐耳の少女は頷き、話を始める。
「そうじゃ、お主。さてまずは詳しい話をする前に自己紹介からいこうかの。 儂はこの神社の神で、昔から稲荷大御神と言われておる。まぁ、気軽に稲荷とでも呼ぶとよい」
「……は?」
狐耳の少女が言ったあまりに突拍子もない話に頭が混乱する。この子が……神様?
「神、というよりかは人ではない証拠に耳とか尻尾とか生えておるじゃろ?」
自分を神と名乗る狐耳の少女は自慢げに耳をピコピコと動かし、さらに自慢げにふわふわの尻尾を揺らす。
「いや……まぁ人ではないだろうけど……」
狐耳と尻尾をせわしなく動かしている狐耳の少女……稲荷はそうであろう! そうであろう! と腰に手を当て誇らしげに笑みを浮かべた。
流石に冗談だと思いたいが……あれだけ違和感なく動く尻尾や耳を見る限り、人ではないことは確かだろうけど……。
本当に神様なのか? 精巧に作られたコスプレグッズ? いや、そもそもこんな幼い子が深夜に神社にいるなんておかしいし……などとあれこれ考えていると稲荷が咳ばらいをした。
「こほん、次はお主の自己紹介を聞かせてもらおうかの?」
「あー……うん。僕は多田独人。一応社会人だったけど、今は無職。どうせ死ぬからと思って辞めたんだ……うん、これくらいかな。粗方さっき話しちゃったからね」
自己紹介なんて、いつぶりだろうか。僕はなんだか気恥ずかしくなり頭を掻いた。
「まぁそうじゃの。それにしても独人、か。名は体を表すというが、どうやらお主を見る限りそのようじゃの?」
稲荷はそのことが随分とツボに入ったのか、かっかっかと笑い続ける。『名は体を表す』なんて、迷信だと思ったが……確かにその通りだと納得してしまう。僕は笑い続ける稲荷に苦笑いを返した。
稲荷は満足するまで笑い終えたのか、話を続けた。
「さて、自己紹介も終わったことじゃし本題に移ろうかの。生きる意味を与えるということじゃが、詳しく言えば儂の為に生きて見んか、ということなのじゃ」
「君の為に生きる……?」
「そうじゃ。もっと詳しく言えばじゃな……神は人々の信仰心が無ければ存在できぬ。儂も人々の信仰心があるから存在できておるのじゃが……ここ最近はめっきり存在が薄くなってしもうての。何れ儂は消えてしまう。言いたいことは分かるの?」
「……えっと、僕に君への信仰心を集めるために動いて欲しいってこと? でもそれなら君が動いた方がいいんじゃ……それか神主さんとかに頼むとかさ……」
一般人の僕が信仰心を集めるために動くよりかは、間違いなく神様本人や神主が動いた方が何倍も良い気がする。そう思い稲荷に自分の考えを言ったが、稲荷は首を横に振った。
「神主はおらぬ。それに儂は極僅かな人間にしか認識されないのじゃ。心の底から神を望んだ人間……お主のような者にしか儂ら神を見ることは叶わぬ。故に、儂が直接動くことは殆どできんのじゃ」
「あぁ、なるほど……そうなると、今君が見えている僕にしか頼めないのか」
「そういうことじゃの。どうじゃ? 儂の為に今一度生きては見ぬか?」
……正直信仰心を集めるとか、あまりうまく気はしない。でも、僕は多分こんな無理そうな理由でも良かった。実際こんな突拍子の無い出来事だけど、これからこの神様の為に”生きる”という事に僕は何故だか浮かれている。
僕が首を縦に振るのに、時間はかからなかった。
Memoryです。
前回の投稿からものすごく時間が空いてしまいました。
忙しかったんです。
それに、初めての小説投稿という事でものすごく慎重になりながら書いているせいか余り進まず……申し訳ない。
次の投稿は頑張って今週末までにしようかと考えています。
恐らくこの先も暫く投稿が遅くなります。
遅いのは私自身もの凄く遅筆なのもありますが……もっと他に訳がありまして……
ほら……あれは仕方ないんです……
艦これとか世界樹の迷宮ⅴとか死ぬほど楽し……忙しくてうわなにをするやめr