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ヌベスコはおやつに入りますか?   作者: 勇者スライム
3/3

《僕のヌベスコ》

そういえば入学式の前日に夢を見た。まあ夢なんていつも見てるんだろうけど、まだ覚えてるんだ、しかもはっきり。

眩しいライトを浴びながら、知らない場所に立ってて、そこには楽器が置いてある。でもその楽器はピアノだとか、トランペットだとかじゃなくて、ドラムとか、ギターとか。ちょっとかっこいいやつだった。

そんな僕も楽器を持ってた。

横を向くと楽器を持った4人がこっちを向いて微笑んだ。前にはたくさんの人がいたんだ。

なんかよくわかんないけど、すごく熱くて、楽しかった気がする。

はっきり覚えてるとかかっこいいこと言ったけど、覚えてるのはそのくらい。それにしてもなんで今さら思い出したんだろ。


「...い、おーい!」

「はいっっ!?」

はっとして、急いで振り返る。

「なにぼーっとしてんだ、もうすぐ始まるぞ。」

前を見ると、楽器を弾いている4人が目に入った。

「始まるって何が?」

目の前にいる林田はヤバい奴を見るような目でこっちを見てきた気がする。

「先輩たちの演奏だろ?」

「わかってるって、冗談冗談。」

そうだったそうだった。僕は今日こいつと軽音部の見学に来た。

始めは、ギターとかドラムとかいろんな楽器を触らせてもらった。もちろん、どれもやり方わかんなかったけど。

ひと通り触らせてもらった後、僕たちのために演奏してくれる流れになったんだ。

軽音部の先輩は2年生4人だけ。男子3人、女子1人ってところ。

バンド名は「Full DRIVE」。最後まで全力で演奏するという意味を込めて付けたらしい。実際はくじ引きで適当に決めたって1人が漏らしてたのを僕は聞き逃さなかった。

「どんなんなのかな...すげえ楽しみだ。」

目を輝かやかせながら林田は言う。

「うん、そうだな。」

なんとなく返した。

僕は別に音楽が好きなわけではない。別に嫌いだなんて言ってないぞ。なんというか、思い入れ、興味がないんだ。そんなやつがなんでこんなところに来たのかよくわからないけど、今はどうでもいいか。

奥でドラムのスティックが掲げられた。いよいよ始まる...!!


ーカン、カン、カンカンカンカンッ。

スティックの音が頭のはるか後ろの方まで飛んでいった。

その瞬間、自分の見ている小さな教室は、大きなステージへ変わった。演奏している曲はわからない。初めて聴く曲だ。なのに、まるで一番好きな曲を聴いているように、心が踊ってる。

気づけば、前のめりになってステージをみている。目は見開いて、自然と口が開いていき、笑顔になってる。

思えば、バンドの演奏を生で見たことはなかった。ギターの音に周りを包み込まれ、ベースの音には下から持ち上げられ、ドラムの音に体を打たれ、ボーカルの声には心を撃ち抜かれた。

すごい、すごいすごい。音楽ってこんなにすごいものだったの...?

聴こえてくる音が踊ってる。入試に合格した時の帰りよりも、おととい見学に行ったダンス部よりも、ずっとずっと、ずーっと激しく、でも優しく、なにより楽しく踊っている。


ー気づかなかった。僕の知らないこんなものがあったなんて。ー


演奏が終わった。なんだろうこの感じ。どうしていいかわかんない。

「すごかったです!!!」

隣で林田が立ち上がって拍手をしている。

「ありがとう。」

照れくさそうに先輩は言った。

「君はどうだった?」

さっきまでボーカルをしていた女子の先輩が僕の前に立って聞いてきた。

「あっ、えっと...その...。」

なんて言っていいか全然わからない。

「そっかぁ...やっぱりまだ下手だよね...ごめんね...。」

「いや、違うんです!すごいなって思いました。でも、なんて言っていいかわからなくて...。」

「本当?よかったぁ。」

安心したのか、にっこりと優しい表情になった。かわいいなこの人。

「じゃあ、今日はここで終了にしまーす。」

軽音部の部長、さっきはベースを弾いてた先輩のコールで今日はお開きとなった。

「もし、やりたくなったらいつでも来てくださいね。大歓迎です!」

そう言われたので、少し安心した。

「そういえば、他にも1年生来てますか?」

「あーそうだね、他にもう2人来たね。その子達も入ってくれるといいなぁ。」

他には2人しか来てないなんて、つくづく人気のない部活だなぁ、バンド組むなんてみんな憧れそうなもんだけど。やっぱり人間色々なんだってつくづく思う。

「じゃあ、僕達はこれで。」

「じゃーねー!」

やっぱり先輩かわいいなちくしょう。


「じゃあ俺はこっちだから。」

「おっまた明日。」

林田の家は学校の近所らしく、駅まで一緒に行かないのだ。うらやましい。

今日はいい日だった。心からそう思えた。そりゃ授業は除いてね、当たり前だろ。

絶対に軽音部に入ろう。あの演奏を聴いた瞬間から僕は決めていた。あんなに感動したのは今まで生きてきてきっと初めてだ。これからもそんなことはきっとー。


「あれ、君ってもしかして、光...?そうだよ光じゃん!あたしだよあたし、瑠美音!」


いや誰だよお前。マジで...誰なん?











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