三
昔ながらの風情を残した素敵な庭がありました。木漏れ日を受けてちらちらと地面が輝き、同じ様に太陽に照らされた池がまるで宝石を抱えた宝箱のように幾重にも光を折り重ねながら瞬いていました。心地よい空間を正面に、一組の男女が座っておりました。男女を背中から見たときに、左側が女の子、右側が男の子です。二人はそれぞれの手に緑茶を持っていて、それをすすっては美味しそうに目を細めるのでした。
それはちょっと、奇妙な光景でもありました。
「今日、コンビニへお弁当を買いに行ったんだよ」
不意に、男の子が口を開きます。
すると女の子が、畳みかけるように質問を投げます。
「そうなんだ。何のお弁当買ったの?もう食べた?まだ残ってる?私にも少し頂戴?」
「すき焼き弁当。もう食べたよ。まだ半分ほど残ってるけど。よかったら後であげるよ。まぁそれはいいとして……」
「あらら……」
「え、どうしたの?」
「何か今日は随分気前がいいじゃない?いつもは後で食べる―ってくれないくせに」
「ん、あぁー。うん、まぁ。それを含めて話そうと思ってたんだけど」
「うんうん」
「今日コンビニに行ったんだ」
「それさっき聞いたよー?」
「うん、いや、それでね。お腹が空いたから適当にご飯でも食べようって思って。すき焼き弁当と『そーいお茶』を持ってお会計に行ったんだ」
「ふむふむ」
「それでレジのお兄さんが普通にお会計してくれて、袋に入れてもらって……。そんで一旦コンビニの外に出たところでさ、お箸が入ってないことに気が付いたんだよ。そんでお箸くださいーってレジに引き返したらさ」
「うんうん!」
「レジのお兄さん露骨にむかついた態度をとったんだよ」
「あらら」
「まるで『もう俺は会計を終えて品物を袋詰めしてあんたに渡したんだから今更そんなこと頼むんじゃねぇ』って言ってるような感じでね。まぁそんなことがあって―――お箸はまぁもらえたけど―――こっちも苛々したような申し訳ないような気持ちになっちゃってさ」
「それはレジのお兄さんが悪くない?仕事なんだから。仮にも接客業でしょう?」
「でもね、僕もお兄さんの気持ちが分からないでもないんだ。注文通り完璧にこなした後に新たに注文される、ってのは意外と精神に来るよね。だけど今まさに君が言ったように、仮にも接客業という事だから、露骨にイラついた態度を見せてくるのもどうだろうって思って。で、うん。だからもやっとした割り切れない気持ちになったんだよ」
「なるほどねー……。そっかー」
「でもまぁ、この話には続きがあってさ」
「おー?」
「お箸を受け取った後、もう用もないから帰ろうとしたんだ。このコンビニは自動ドアじゃないから、手でドアを開けて。そしたら小さな子供がコンビニに入ってこようとしててさ、僕はドアを押えてあげたんだ。そしたらね、その子もその子のお母さんも、まるで僕が凄い特別なことをしてくれたような顔して言ったんだ。‟ありがとうございます”って。僕は当然のことをしただけなのに。そしたらね、もう、なんかさ。今までのもやっとした気持ちが晴れてなくなったんだよね」
「それで上機嫌だったんだね。納得」
「うん。なんか嬉しくなっちゃって。その子の『ぱああ』って笑った顔見たら、なんか自分がちっぽけに思えてきちゃって。なんていうか、自分も。考え方も」
「そっか」
「そんで僕はなんとなくだけど、本当に大事なものってこういうことなんだなぁって思いながらお弁当を半分食べてから帰ってきた」
「……子供って時々大切なことを教えてくれるよね」
「うん。だから僕たちも、そんな子供たちに恥じないような人間にならなきゃな」
「……そうだね」
そう言って、彼女は半分だけ残ったコンビニ弁当をガサガサと食べ始めました。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
それにしたって接客業の大変さは凄まじいほどです。
だからこそ、笑って接客してくれる人がいたら笑顔になるし、
無骨な態度をとられるとムッとしてしまいます。
当たり前ですね。当たり前なんだと思います。
だから僕も店員さんに笑顔で接したいなと思います。
次回もどうかよろしくお願いします。