一
鹿威しが鳴りました。
かこん。かこん。
小気味のいい音が響くと共に、小鳥たちの囀りが折り合って戯れるように天へと消えていきます。
縁側から見渡せる庭には、小さな池と、それを見守る様に佇む灯篭と、緑の木々たちがその身を風に任せてゆったりと揺れていました。
そんな日本の昔ながらの庭を、縁側に座っている二人は眺めています。
二人を背中側から見たときに、左側に女の子、そして右側に男の子。それぞれ手に緑茶を持って、口に付けては美味しそうに眼を細めています。実に奇妙な光景でした。
「でも」
不意に、女の子の方が口を開きました。
「勿体ない、っていう人もいるよ。絶対」
すると、男の子が答えます。
「それはいるだろうね。人の考え方なんてそれぞれ、まちまちだもの。こうしてのんびりしている暇があったなら、何か別のものを生み出すように動いた方が良いって人もいる」
「うー、んー……。私のお父さんなんかは、『ぼーっと暮らすのだけはやめてくれ。本を読め。勉強をしろ』ってうるさいよ?」
「まぁそれは心配してくれてるのもあるんだろうけど……。僕は、こんな風に、それこそ、ぼーっとしてる時間だって大切だと思うんだ。なんの意味も無い様に思える時間だって、何かしら意味はあるって信じてる」
「……勉強は大事ってことは理解してる。けどさー。結局身を粉にして勉強して、いいところを出て、いいところに就職して。それでその中で頑張って働いて、年収があーだこーだ言ってさ。でもそれってさ」
「うん」
「どうなんだろう、と思うよ」
「というと?」
「そりゃお金は沢山欲しいし沢山あった方がいいけど。沢山稼ごうって思う根本的な衝動は、その人が自分の人生を豊かにしたいって思うからでしょう?自分の生活が楽しくなるように、でしょう?家庭を持って養うのもそう。そうしたら嬉しいだろうなって思ったからそうしてるんだよ」
「ん。まぁ……そうだろうけど。……つまり?」
「だからさ、みんな朝から晩までひっきりなしに働いて、仕事だ仕事だ、あぁ忙しいって休日まで出勤したりして。それで、楽しいのかな、って思うの。人生を楽しむためのお金を稼ぐって手段が。それ自体が。……‟お金を稼ぐこと自体が目標”に変わっちゃってるんじゃないかなと思うんだよね」
「‟手段”と‟目的”をすり替えちゃってるわけか」
「ん……まだ私ほんの子供にすぎないからよくわかんないし上手くいえないけど。でも周りの大人とか見てると……。思うよ?」
「そうだなぁ。生きてくために、食っていくために。お金は必要で。……楽しむ余裕なんてなくなっちゃってるのかもしれないよなぁ」
「……つまんないね」
「つまんないな」
「勿論、そんな人ばかりじゃない」
「それは分かってる。ちゃんと仕事を、楽しむためにできてる人もたくさんいる」
「自分のやりたいことをして、それでもちゃんと生きていけてる人もいるしな」
「そんな人になりたいな」
「なれるかな」
「なれるよ」
「……大人からみたら、仕様のない子供の戯言だろうけど」
「戯言を言えるのも子供の強みさ」
かこん、と鹿威しが鳴りました。
一年以上前に思いつきでつらつらと書いていたものをふと投稿してみたくなりました。
普段生活していく中で疑問に感じたことや心に思うことがあったものなどを題材にしていきます。
稚拙な文のみならず、偏った考えも出てくるかと思いますが、何卒宜しくお願いします。