――言い訳には使えない。(後)
五話目(後編)を更新しました!!
それではお楽しみください!
コンコン。
乾いた音が廊下に響く。が、返事がない。いつもなら、「遅かったわね」と扉をあけてくれるのだが、今日は開かない。
コンコン。
再度、ノックをするが変わらず、返事が返ってこない。
いないのか? どこへ・・・・。
思った矢先、長い廊下に甘い匂いが漂ってきた。何かをオーブンで焼いているような。キッチンの方から? お菓子でも焼いているのか。俺は、甘い匂いに期待を乗せ、においが漂ってきている方向、キッチンへと向かう。
「ここか・・・」
いまだ、ここには来たことがなかった。恐る恐る入ってみると、そこには、フリルの付いた、ピンクのエプロンが似合っている絹織 文音が立っていた―――――それも、陽気に鼻歌を歌いながら。
「ここに、おりましたか文音様」
「⁉ ちょ、ちょっと、びっくりさせないでよ!」
「すみません、気づいてなかったものですから」
びっくっとなる姿は可愛かった。
「もう、遅かったわよ、りん」
「学校があったもので・・・」
「ま、いいわ。 それより手伝ってくれない?」
「いいですよ――――何をしてらっしゃるのですか?」
「クッキーを焼いているの、美味しいクッキーを」
廊下まで漂ってきた甘い匂いの正体はクッキーだった。
「文音様、お菓子作りなど出来るのですか?」
「・・・・バカにしてない?」
「まぁあ」
「いや、否定しないんだ⁉」
「冗談ですよ―――それで、私は何をすれば?」
「そこにある、クッキー生地をハート型に模ってほしいの」
「ハート型に?」
「そうよ、ハート型に」
ハート型―――――そう聞いて、思い浮かぶことは一つしかない。
「好きな人にでも、渡すのですか?」
「い、いや! ち、違うわよ‼」
分かりやすい否定をする絹織 文音――――――まさか、絹織 文音に好きな人がいたとは・・・。―――いったい、誰なんだ。学校の奴か? 柊の奴か? 気になってしょうがない。
そして、なんだか・・・・。
「この、生地をハート型にすればいいんですね」
「そ、そうよ。 綺麗に模ってよね? 大事な人に渡すんだから」
「はい――――あ」
さっそく、失敗してしまう――――いや、失敗というか。
「ちょっと、なにしてるのよ! ぐっちゃぐちゃじゃない!」
俺が作っていたのはハート型――――とは程遠いものだった。
「わざとやってるでしょ?」
「い、いや、まじめですよ?」
「まじめにやって、こんな形になるか!」
「すいません、気を付けます」
「もう! ちゃんと、やってよね! 大事な人に渡すんだから・・・」
――――大事な人に渡すんだから。
その言葉に、どこかチクッと来るものがあったが、それを付き人の俺が邪魔していいわけがない。
クッキー生地と一緒に、この分からない感情もハート型に模り、ご機嫌に鼻歌を歌っている絹織 文音を横目で見ながら、ここまで、ご機嫌にさせてしまうほどの男が、どんなものなのか―――――――――気になって仕方なかった。
それは自宅に帰宅して、報告書を書いている今でも気になっていた。そっちに意識が行ってしまい、報告書をまとめるのに集中できない。
「誰なんだろうか・・・・」
考えても考えても答えは出ないのは分かっている。だが、誰に渡すかも分からないクッキーを作るのを手伝ったというのに、教えてくれないとは。
――――りんに言っても分からないでしょ。
この言葉の意味から、紅葉ヶ丘高校の生徒だと推測は出来る。
メイドとして働いている水崎 凛の時は、紅葉ヶ丘高校の東側にある、公立高校で通っているという設定になっているだ。
――――明日、絹織 文音をこっそりと付きまとって確認する。
これしか、知るすべはない。
なんとか、報告書を仕上げ布団に入った。枕元に置いてあるスマホの電源を入れると、24:38と、その後ろでは、気持ちよさそうに眠り姫がいた。今日の就寝は最近と比べたら早い。
―――――やっと、少しは疲れがとれる。
瞼を閉じると、瞼の裏には、眠り姫が残像として映っていた。
そして俺は、眠りにつく――――ゆっくりと薄れていく眠り姫と共に。
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