――言い訳には使えない。(前)
五話目(前編)を更新しました!!
それではお楽しみください!
真っ黒なネクタイを締め、真っ黒なスーツを羽織る。高校の制服がブレザーであるため、ネクタイを締めることは難なくできるが、羽織っている丈の少し長いスーツは鏡を見て確認しなくても、まだ着こなせていないのが分かる。この、メイド兼潜入調査は二週目に突入した。慣れた手つきでカツラをかぶる自分が映る鏡を見て、目の下にクマがあることに気付いた。
最近は、家に帰宅するのも遅く、それから報告書を書かないといけない、そのため布団に入る頃には日にちが変わっていることが多くなった。メイドの仕事というか絹織 文音の付き人に慣れてきて少しは楽しくなってきたのだが、思っていた以上に絹織 文音は、家では素直すぎて我が儘で、肉体的精神的にダメージが溜まるペースが速かった。一日の前半は学校で後半は付き人。このサイクルには二週経ったが、いまだに慣れない。
「よしっ!」
鏡に写る自分に頑張れと声をかけるかのように気合を入れ、ここトイレを出た。
コンビニ店員の視線がいつも怖い。目を合わせないようにしているのだが、首を傾げているのが視界の隅に入る。
店員さんの気持ちも分からないこともない―――――制服姿で入店し、店を出るときにはスーツ姿に髪の量も増え、髪型も変わっているのだ。俺が店員でも首を傾げる。
だが、そこの研修中の彼女、ここは大目に見てくれ。
―――――俺は軽く頭を下げ、コンビニを出た。
二週目にもなると、絹織家に向かうのは簡単だ。初めてのころは地図を見ながら歩いていたのだが、今となってはスマホの画面を見ながらでも向かうことが出来るほどになっていた。
愛用しているスマホの画面には、眠り姫こと、絹織 文音が映っている。あまりの綺麗さに撮影してしまったものなのだが、バレる事には怯えず、ホーム画面に設定してしまうぐらいになっていた。みな思うだろう、彼女でもない女をホーム画面に設定するのかと、しかし、考えてみてくれ、好きな女優や、好きな漫画のキャラをホーム画面に設定している人も山ほどいるだろう――――彼氏彼女でもないのに。
それと同じことだ。
好きってわけで設定してるわけではない。この写真にはどこか心惹かれるものがあったから、出来るものならずっと眺めておきたい、俺にとっては景色のような感じで眺めていた。
―――――まぁ、あとは単純に眺めていたら元気が出るから。
これは、もしバレたときの言い訳では言えないことだ。
愛用しているスマホのホーム画面を眺めていると、絹織家に着くのも早い。俺は、客人ではないので、正門からではなく関係者専用の裏口から入る。絹織家で働いているメイドさんは俺を入れて八人、それも俺以外は全員女性という事実。
そして今日もメイド室には、いつもの二人がいた。
「おはようございます」
「おはよ~」
「・・・・」
挨拶を陽気な返してくれたのが先輩の雪菜さん、スマホに夢中で挨拶を返してくれなかったのが、同じく先輩の由依さん―――――この二人は俺と歳が二個しか変わらず、なんとなく絡みやすい。
「学校帰りだなんて、がんばるよね~」
「まぁ、仕事ですからね」
「たまには、息抜きもしなさいよ~? 聞くところによると、文音様の付き人大変らしいじゃない? 我が儘だって聞くし」
「そりゃ、大変ですよ・・・でも」
でも、大変なだけじゃない。
「たのしいですよ」
「まぁ、凛君が楽しいんなら一番いいんだけどね~」
俺は荷物を指定の場所へ置き、準備をする。たとえ相手が同級生だとしても身だしなみには、気を付けないといけない。
鏡で最終チェック(主に、カツラがずれていないか)をし、先輩二人に挨拶をして、絹織 文音の部屋へと向かった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
続けて次話を更新していますので
そちらもよろしくお願いします!!