――仲良しとは反面。
四話目を更新しました!!
前後編ありません。
それではお楽しみください!
「それじゃ、いってくるよ」
優雅に泳ぐ鯉の「ろん」と「どん」に挨拶をして空を見上げた―――今日も雲一つない快晴。
風は温かく、春の匂いを運んでいた。
――――――こんな日には、良いことがあるに決まってる。
そう思って勢いよく家の正門を飛び出したのだが、学校へ向かい歩き出して数分のところで、やはり捕まってしまう――――――お決まりだ。
「おはよう、こんな良い日なのにあなたに会うなんて私、ついてないわね」
「俺も・・・・思ってたよ」
制服を着た絹織 文音はやはり、こうも毒舌キャラになってしまう。
お前の横を歩いているのは昨日、楽しくお喋りした男だよ――――って言ってやろうか。
それに、言ってたじゃないか。俺の事を下の名前で呼びたいって。そんな素振りは全く見せない絹織 文音――――感情にも制服を着させているのだろうか。
ここは、俺が特別大サービスに一肌、脱いでやることにする。
「なぁ、絹織 文音――――今日からお前の事、文音って呼んでいいか?」
「なっ⁉」
何食わぬ顔で歩いていた絹織 文音は、一瞬にして固まる。そして、
「な、ななななんでよ⁉」
「なんでって・・・絹織 文音ってフルネームで呼ぶのが長いから」
「え、いや、でも! そ、それでも、きゅ、急に下の名前って・・・・!」
「・・・・い、嫌ならいいんだけどね!」
まさか、こんなに抵抗されるとは思っていなかった俺はなんかツンデレ女みたいに不安になる。
――――気持ち悪い、何この男! と思われたんじゃないだろうか。
余計なお世話だっただろうか・・・昨日言った事はその場のテンションで、寝て起きたらそんなことは思っていません。的な流れで・・・というか、制服を着てるってことは昨日とは違う性格というわけだから、俺を心底嫌う絹織 文音に言ってしまったことになっていることで――――不安が不安を煽ってくる。そっぽ向いてるってことは見る価値に値しなくなったと言うこと――――はぁ、逃げ出したい。
「忘れてくれ」と、言おうとした時、
絹織 文音はそっぽ向いたまま小さな声で、
「じゃ、じゃあ・・・・・り、凛って呼んでいい・・・・?」
「・・・え、あ。あぁ、いいぞ、全然」
―――なんだ、このグダグダ感。そう思われても仕方ない。完全、警察を呼ばれると思っていた俺にはまさかの展開だった。
昨日の感情は制服を着ていたのにも関わらず残っていたのか、それとも、いろんな感情があると思っている俺が、考えすぎなのか。そんなことは分からないが、学校に着くまでにはお互いの事を違和感なく下の名前で呼び合えるようになっていた。
「ほんと、凛ってバカよね」
「アホな文音に言われたくはないな」
――――――――こんな風に。
「お前らは本当に、仲がいいな」
天気の良い日ほど外のテラスで食べる昼飯ほど美味しく感じるものはない。今日は、四家が集まって昼飯を食べると俺たちで勝手に決めている、第二水曜日だった。木で出来た椅子、木で出来た机、木々に囲まれたこの空間はとても落ち着く。俺は、木というものに惹かれてしまうのだろう。それにこんなところで、読書なんてしたら書いてあることすべてが頭にすらすらと入ってきて理解力が上がるのかもしれない。こんな絶好な読書スポットで飯を食べていた。飯の内容が頭にすらすらと入ってきていつもより美味しく感じる―――なんてことは無いのだが。
目の前で、「あーん」なんてやっているのが四家リア充名家の鬼村 一夜と三条 朱音。
そんな光景を見せつけられながら食べる飯はなんだか、美味しいのだが素っ気ない。たぶん、俺の横に座っている絹織 文音も同じ気持ちだろう。
「仲がいい? そうかな~」
彼氏の口に箸で飯を突っ込んであげながら何を言う。
「うん、おいしいよ」
「そーお? ありがとぉ」
そりゃ、美味しいだろう。彼女に食わせてもらう飯――――それに三条 朱音は料理が上手い。
――――お父さんが料理人だって言ってたっけな。実際におかずを分けてもらって食べたときは感動した。
そんなうまい飯を食わせてもらっている鬼村 一夜は、幸せ者だろ。ほしいものは全て手に入れてるんじゃないかと思ってしまう。頭は良く運動もでき、可愛い彼女がいる――――それにイケメンって・・・・。
目の前にいる美男美女カップルは俺らなんか置いて自分たちの世界に入ってた。
「どう思う」
「どうって言われてもね・・・」
黙々と食べる飯は飽き、絹織 文音に話しかけた。絹織 文音もつまらなかったのだろう、
「まぁ、いいんじゃない? お互いにそれで幸せなら・・・それで」
「・・・そうだな」
「だけど・・・・これは腹が立つわね」
「やっぱり、そう思うか」
「凛も思う?」
「あぁ、思うぞ・・・さすがにな」
俺らは、箸なんか進まなく、別の世界に飛んでいったカップルを妬んだ。
「凛は・・・彼女とかいるの?」
「お、唐突だな・・・俺か? 俺はいないぞ、彼女なんてな」
「へぇ、だっさいわね」
「だっさ⁉ な、なら、お、お前こそ! か、彼氏とかいるのかよ!」
「いないわ! 作らないだけよ?」
「―――もう、いいよ」
ふんぞり返っている絹織 文音。
―――だが、不思議だ。こいつにも彼氏ぐらい、出来てもおかしくないのに。
「どうしたんだ?」
「また、ケンカぁ?」
異世界から帰ってきた二人が心配そうにこちらを見ていたが、
「いや、なんでもない」
「なんでもないわよ」
現実世界に生きる俺らは揃えて答えた。
「仲良くしなくちゃだめだよぉ?」
「はーいはい・・・お前らのその仲良さじゃ、紅葉狩祭、お似合いカップル賞はお前らに決定だな・・・なあ、文音」
「そうね、凛の言う通り、一夜くんと朱音ちゃんが取ると思うわ」
お似合いカップル賞――――――それは、紅葉ヶ丘高校の一大イベント紅葉狩祭で与えられる称号ことで、この高校は体育祭、文化祭のない代わりに二年生になると紅葉狩祭というのが行われる。紅葉ヶ丘高校は入学と同時に、「橘」「柊」「梔」「榛」と、この四つにグループ分けされ、それから三年間変わることはない、いわば組みたいなものに分けられる。
俺と絹織 文音は柊だから、自己紹介をすると「二年・柊 氷崎 凛」となり、
学年が変わっても変わることがないから「三年・柊 氷崎 凛」とこのようになるのだ。この、分けられた四つのグループでいろいろな種目に挑み、一位のみもらえる称号を手にするというものが紅葉狩祭となる。種目は、体育系、文科系いろいろあり、簡単にいえば、体育祭と文化祭が合体したような紅葉ヶ丘高校特有の行事でもあった。
「それは分からないさ、確かに榛の代表は僕たちだけど」
「その時にならないとわからないよぉ」
仲の良さを謙遜するカップルに思う―――日頃の行いも、どうか謙遜してくれ。
「それより君たち、柊はどうなんだ?」
「・・・どうって?」
「誰が、代表で出るんだ?」
「誰が出るって・・・なあ?」
俺の代わりに絹織 文音が説明をする。
「私たち柊には、まだカップルはいないわよ―――たしか、結菜ちゃんは橘に彼氏がいるってきいたけど・・・・だめじゃない? だからまだ、分からないのよ」
そうゆうこと。――――――てか、キレ気味ルーム長、彼氏いたんだ・・・・。
「でも、出場条件はカップルじゃなくてもいいんだよぉ? 仲の良さに自信がある男女ペアって書いてあるしぃ」
「それで、うちの榛の先輩たち去年、出場した男女は付き合ってなかったらしいんだけど、見事、お似合いカップル賞をもらってそれから、付き合い始めたらしいんだ――――榛ではそれが伝説になっているよ」
「ほんと、ロマンチックだよねぇ」
「そうだな・・・」
「そうね・・・」
語る目の前のカップルをそっちのけで残っていた飯を食べる俺らに、三条 朱音は言う。
「文ちゃんと凛ちゃんが出ればいいのにぃ」
「なっ!」
危ない、おかずを吹きだすところだった。
「なんでだよ・・・! な、なあ、文音!」
「ん・・・ぐ・・・」
―――――絹織 文音は吹きだしてしまったようだ。
「ぞ、ぞうよ・・・ごほごほっ・・・ながよく・・・ないじ・・・」
「わかったわっかたぁ、だから、無理してしゃべらないのぉ」
「・・・・僕には、仲良くみえるんだけどな」
「ないない」
鬼村 一夜には、毎回のように言われていた――――仲が良くみえる。鬼村 一夜は俺と絹織 文音の関係を薄く表面で見ているからそんなことが言えるのか、それとも、深く核心を見ているから言えるのか――――実際に俺だって仲は良くなりたいとは思う。思うということは、今の現状が仲良くないと言うこと。
凡人な俺とは違い、天才には見えているもの感じているものが違うとでもいうのか。
考え方が違うこと―――――それはある意味、刺激になっていた。
「そろそろ、予鈴がなるから戻ろうか」
俺と絹織 文音が仲が良いか悪いかなんてことは他人に決められることではない。この話に終わりを付けるため食べかけの弁当を片付けながら言った。
「いくぞ、文音」
「ちょ、ちょっと、待ってよ」
絹織 文音も弁当を片付け後をついてくる。
「じゃあね、文ちゃん凛ちゃん!」
手を振る美男美女カップルに俺と絹織 文音は同じように手を振り返す。
いつか、いつか他人から言われるんじゃなく自分で、胸張って、偽ることなく俺らは仲が良いって言える日が来ることを――――いや、言えるように。
「よろしくな、文音」
「え? あ、よ、よろしく・・・・・?」
絹織 文音の返事は爽やかに穏やかに、でもどこか不安げな風に流されていった。
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