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――俺と彼女(後)

三話目(後編)を更新しました!


お楽しみください!

「ねぇ、りんって呼んでいいかしら?」

急な呼びかけに意識を戻される。

「いいですよ、どんな呼び方でも」

「それと、私の事は文音って呼んで」

「それじゃ・・・文音様で良いですか?」

「う・・うん。 それでいいわ」

変な間があったのは少し気になったが、聞き返すようなことはしない。それよりも気になることが出来たから。

―――あれ、キャラ変わった?

「りんっていくつ?」

「十七ですけど・・・」

「へぇ、おんなじだ!」

さっきとは違う。気品のある笑顔じゃない。子供のように無邪気に笑っていた。

高校はどこなの? 家はどこら辺? 数学苦手なんだぁ、私は得意なんだ―――。

しがらみから解かれたように笑顔で話す絹織 文音。

こんな風に笑ったり、話をしたり、学校じゃ見たことのない絹織 文音―――これがうちの性格なのか。それじゃ俺が、日頃見ている絹織 文音はそとの性格であるというわけで、理沙さんといる時の絹織 文音は繕った性格。いろいろな性格を持つ絹織 文音に俺はどう接していけばいいのか、俺だって今は自分を隠している――――絹織 文音はどれが本当なんだろうか。

「でもさぁ、君のりんって名前を一度、呼んでみたかったんだ」

「と、いいますと?」

楽しそうに話をしていたのに、絹織 文音は急に息を整え落ち着き、遠くを見て言った。

―――――りんって名前を呼んでみたい。

「あのね・・・」

昔話をするように絹織 文音は言う。

「私の学校に、君と同じ名前の男子がいるの、仲は・・・・悪いんだけどさ、一緒にいて嫌じゃないって思うの。その子にはどう思われてるか分かんないんだけどね・・・・「凛」って呼べたら、きっと・・・きっと仲良くなれるかなって」

―――――花が散るような儚い声で絹織 文音は続ける。

「嫌いな子から下の名前で呼ばれるのって・・・やっぱり、嫌だよね・・・?」

俺は絹織 文音が言う、その子を知っている。フルネームだって、身長だって、好きな食べ物、女優、嫌いなものだってなんでも知っている。

――――――――――だから、自信をもって言える。

「嫌じゃないと思いますよ」

「え・・・?」

「その人は嫌じゃないと思いますよ――――たとえ仲が悪くても、お互いにどう思っているかなんて分からなくても、文音様が言うように、仲良くなれると思います。人間、黙ってるだけじゃどんなことも伝わりませんから」

そうだ、黙っていても伝わらない。二択を問われても答える術は三つある―――――一つは正解、二つは不正解、三つは沈黙――――黙ることだ。いくら、答えが正しくなくても進むことは出来る、ここから進むことが出来る。が、沈黙は答えることが出来るが、ここから進むことは出来ないと、俺はそう思う。

「自信ありげね」

絹織 文音は微笑んだ。無邪気な笑顔でも気品漂う笑顔でもなかった。

―――――これが本当の絹織 文音だったのかもしれない。




俺が絹織家を出たのは、月が綺麗に輝いている時だった。

夜はさすがに冷え込む―――丈が少し大きいスーツに包まっていながらも冷たい風は俺を嘲笑うかのように体温を奪っていく。

「文音様・・・・」

無意識に口から言葉が出た―――あれから絹織 文音とはいろんなことを話した。ちゃんと絹織家の説明も聞いたのだが、大半は絹織 文音が通っている学校の話。それも絹織 文音の言うアホでバカな氷崎君の話―――。

「俺は、あいつにそんな風に思っていたのか・・・・」

俺が思う、絹織 文音の印象と全く同じだった―――アホでバカ。

お互いにお互いを同じように想い合っていたなんて・・・いっそう悲しくなる。

春の夜空は透き通っていて、ずっと眺めていると吸い込まれそうだ。まばらに輝く星たちが、俺の帰り道を導くように照らす。

絹織 文音を今日だけでいろいろな角度から知れたような気がする。これを報告書にまとめて母さんに出さないといけないのか。学校の時の姿ではなく、家の、俺だけが知れた絹織 文音の姿―――誰にも言いたくないな。


自信ありげね、と笑う姿がこの日は寝るまで頭に焼き付いて離れなかった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

続けて

四話目を更新しておりますので

そちらもよろしくお願いします!

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