――彼女は蔑む。(後)
次話を更新しました!!
こちらの方もお付き合いいただけたら幸いです!
俺の家、氷崎家は絹織 文音の絹織家と昔から仲が悪い。俺らの家はここらじゃ知らない人がいないくらい名家で、この学校を中心として東西南北に四つの名家が建っており、
北の三条家、東の鬼村家、南の氷崎家、西の絹織家と呼ばれている。
キレ気味ルーム長が言っていた、一夜は鬼村家の長男、朱音は三条家の長女である。こいつらは親同士仲が良く、その子供である一夜と朱音は付き合っているという、リア充名家として有名なのだが、俺ら、氷崎家と絹織家は犬猿名家として有名なのだ。そんなこと、ここに通う生徒が知らないはずがなかった。何故なら、この学校に通うにはある条件が必要になるからである。その条件とは、もちろん入試で点数を取らないといけないのだが、その入試を受けることが出来るのは、この学校を中心として東西南北にある四家よりも学校側に住んでいる者のみということだ。
なぜこのような条件付なのか、それはこの学校、紅葉ヶ丘高校を経営しているのが四家であるからである。この高校は昔、四家がお互いに協力し合い建てたものらしく詳しい事は知らないが都合上、範囲四家以内という条件を付けたらしい。だから、ここの生徒はある程度、四家のことについては知っているのだ。
「そうだ、絹織 文音の言う通り、俺らは親同士仲も仲が悪い。その子供である俺たち仲が悪くても不自然な事じゃないし、考えられるだろう」
よく頑張った、絹織 文音。あとは俺に任せろ。
「それにな、もし仲が良くて俺と絹織 文音が付き合っていたとしよう。そしたら、一夜と朱音達みたいに俺らにイチャつきを毎日見せられるんだぜ? それをお前ら耐えられるか?」
俺の言葉はクラスのやつらに刺さったらしく、各々が嫌だ、無理、リア充ファック、もがいていた。
終わった――これでもう茶化されることはない。
これからは安心して教室にはいれるという安堵感に浸りながら隣にいる絹織 文音に、
「よかったな、これでもう茶化されなくて済むぞ」
同じ被害者としてこの安堵感の共感を得たかったのだが、絹織 文音は俺の声掛けに反応することはなく、ボーっと遠くを見つめて立っていた。それも、顔を真っ赤に染め、蚊のような声でブツブツと何かを呟いていた。耳に全神経を集中させ、蚊のような声をどうにか聞き取ると、
「付き合ったら・・・イチャイチャ・・・」
呪文のように繰り返しているではないか。
みんなを納得させるための例え話のつもりだったが、さすがに言い過ぎたのかもしれない。
「すまん、言い過ぎた。例え話でもデリカシーにかけていたな」
全く動かない絹織 文音の肩にポンと優しく手を置いた。
が、謝ることに意識がいっていて、いきなり女子の体に触れる事の方がデリカシーが無いんじゃないか、肩に乗せた手をふり払われて、一発蹴りでも入れられるんじゃないかと、絹織 文音の肩に優しく手を置いたと同時に思った俺は、即座に乗せた手を放そうとしたが、先に離れたのは俺の手ではなく絹織 文音の体だった。
ガタン―――という音はたたず、静かに絹織 文音はその場に倒れた。
ざわざわと騒がしかった教室が一気に静まり、変わってひそひそと騒がしくなる。俺は急いで、倒れた絹織 文音を抱え上げ、教室を飛び出した。
「いけぇぇぇ!」
「そのまま、遠くに逃げてしまえ!」
「お姫様だっこなんて、氷崎に似合わないぞ!」
そんな訳の分からないクラスの奴らの言っている事を背中で受け止めながら異様に軽く感じる、絹織 文音を抱え走った。その、軽さが俺の不安をさらに煽る。
女子ってこんなに軽いのか――――。軽い分、不安が重たい。
はぁはぁと、俺の荒い呼吸に合わせるかのように絹織 文音の息遣いも荒くなっていくのが触れている体を通して分かった。
「大丈夫だ、もうすぐ保健室だからな」
聞こえているか聞こえていないかなんてこの際、どうでもよかった。この言葉は、絹織 文音だけに向けた言葉じゃなく、自分へ向けた言葉でもあるから。
もうすぐだ、もうすぐだ。そう頭の中で何度も繰り返し、自分自身の正気を保っていると、長い廊下の先に、《保健室》と書かれたボードが目に入った。とても長く感じた教室から保健室までの距離、実際も教室から保健室までの距離は長いのだろうけど、目的地が目の前に見えて、保健室までの過程など、もう気にならない。
――――運が良かった。保健室の扉は開いていてすぐさま飛び込んだ。
「先生! 助けてくださいっ」
俺の声が保健室中に響いた。いや、多分、扉も開いていたし廊下にも響いていたかも知れない。
自分でもビックリするぐらいの呼びかけに、白衣を着こなしている年配の女性の先生は机に着いていてパソコン越しに驚いた表情をこちらに向け、
「どうしたの⁉」
席を立ち、慌てて駆け寄ってきた。
「急に、倒れたんです!」
「ちょ、そこに寝かせなさい!」
俺は、指示された通りに、綺麗にされているベッドに絹織 文音を優しく寝かせ、先生の言葉を待った。
先生は、慣れているような感じに絹織 文音の呼吸や脈拍を確かめて、
「大丈夫よ、多分貧血だと思うわ・・・」
俺は、先生と一緒に、はぁと息を吐いた。荒くなっていた俺の呼吸も段々と、気持ちよさそうに寝ている絹織 文音を見ているとゆっくりと収まっていた。
目の前で人が倒れるのを初めて見た俺は、死ぬのではないかと、もう一生起き上がらないんじゃないかと、息が荒かった絹織 文音をみて思っていたが、その心配はもう必要ないみたいだ。
何も心配することが無くなった途端、一気に体が重くなった。やはり、女子高校生を一人抱えて走るのはさすがに体にダメージがゼロと言うわけではなかった。絹織 文音が寝ているベッドに俺も腰かけると、先生が理解できない様子で、
「あなた、名前は?」
「―――氷崎 凛ですけど」
「あ、やっぱり。この子は・・・・絹織さんよね?」
「は、はい、そうですけど?」
「実は仲良かったり?」
「違います」
そう、俺らの関係はこうゆう所まで影響してくるのだ。クラスの奴に聞いたんだが、担任もクラスの役割決めで、俺と絹織 文音を一緒にしないように考えて決めているらしい。それなら、一緒のクラスにしなければよいと思うのだが、母さんから聞いた話によると、クラス分けは全て学力、体力関係なしにクジ引きで決まるらしい。クジ引きによって決められたクラスの連中と三年間を共に過ごす――――それが、運命によって引き合った人と人の繋がりだとか何とか、訳の分からないことを聞いたこともあった。
それに、こうも周りから気にかけられていたら、絹織 文音と仲良くなることがいけないような気がしてくるのだ。実際のところ、本気で絹織 文音を嫌っているのかと聞かれると困ってしまう。親同士仲が悪かったら、子供同士も仲が悪くなる――これは、仕方ない事かも知れないが、そうゆうのは、あまり好きではないし理解しがたいのも事実。まぁ、絹織 文音自身は俺との関係についてどう思っているのか、それこそ分からないのだが。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
こちらの方は完結しておりますので
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