――半年と距離。(前)
七話目(前編)を更新しました!!
長らく時間があいてしまい申し訳ございません。
感染性胃腸炎という学校は出停になる嬉しい病でしたが、すごくきつかったです。
自己管理不足だと反省しております・・・・
ほんとうにすみません・・・
それでは、続きをお楽しみくださいまし。
「ねぇ、凛―――何が言いたいか分かるわよね?」
殺風景なこの和室で重いトーンの声はとても聞こえやすい。
何が言いたいか分かるわよね? この言葉の意味も何が言いたいのかも俺は十分承知の上だ。
「はい・・・かあ―――お母様」
「潜入調査を始めて約半年が経つわよね?」
「・・・・はい」
現在―――九月上旬。暑かった夏の熱も段々と和らいでくるであろうこの季節に母さんの熱は和らぐどころか、まだまだ猛暑であった。
「報告書は欠かさず提出している真面目さは認めるわ―――でもね、凛。内容が薄いのよ」
「でも、お母様―――真実を書いているだけで・・」
「じゃあ、嘘は書いていないと信じるわ。でもね、絹織家の庭に植えているアサガオが綺麗に開花しました―――って・・・この報告書なんの意味もないじゃない。日記? あなたにとって報告書は観察日記か何かなの?」
「どんな些細な事でもいい―――ってお母様が言ってましたので・・・」
「そんなことは言ったけど・・・」
座椅子に腰掛けている母さんは頭を抱え込み、ため息を吐いた。
「これからは、もっと重要な事を報告書に書きなさい。どれが重要で重要じゃないか―――凛、あなたの価値観よ? 氷崎家の人間ならそれが分かるわよね?」
「はい」
報告書のダメ出しを入れられた九月上旬の第一日曜日。九月の中旬にある紅葉狩祭の準備などで俺もここ最近は、スパイとして絹織家に潜入していた事を忘れることが多くなった。絹織 文音の付き人という仕事も慣れてきて今は楽しくなってきている。絹織 文音の機嫌を損ねないように頑張ってきているのだが―――それよりも母さんの機嫌を損ねさせた方が危ないということを再確認させられた今日、四家が集まる日でもあった。
集合時間に遅れて入ったファミレスには鬼村 一夜に三条 朱音、絹織 文音は席に座りドリンクを飲んでいた。
「悪い、遅れた」
「―――もう、遅いわよ」
謝りを入れて席に座るが、一番に声をかけてきたのは絹織 文音。
「目の前に座っているカップルを一人で二十分近く見させてしまったな・・・」
俺と絹織 文音の目の前ではリア充名家が仲良くお喋りをしている。俺が来る間に絹織 文音が一人で外を眺めていた光景が切なくて申し訳ない。
「おーい、仲良くしてるところ申し訳ないんだけど・・俺来たよ」
「おぉ、凛。早かったね」
「凛ちゃん、久しぶりだねぇ」
二人の世界では時間の進みは遅いのだろうか。
はぁ、と隣でため息を吐く絹織 文音の横顔はもう呆れきっていた。
「まぁ、俺が言うのもなんだけど・・・みんな揃ったことだし・・・」
「早く済ませましょ」
―――絹織 文音は早く帰りたいそうだ。
それにしてもなぜ今日集まることになったのか―――それは紅葉狩祭の事だった。
鬼村 一夜と三条 朱音が言うにはお似合いカップル賞を手に入れる大会に柊の代表として俺と絹織 文音が出た方が盛り上がるんじゃないか―――こんなことを学校の奴らが言っているのを聞いたらしい。
榛・鬼村 一夜と三条 朱音。
柊・俺と絹織 文音。
橘・カップルの男女。
梔・カップルではない男女。
俺と絹織 文音が了解したらこのような組み合わせになり、カップル二組にカップルではないのが二組と丁度良い感じになって、見ている観客達も飽きずに楽しめそうな感じなのだという。
「それで・・・どうなんだい?」
「凛ちゃんと文ちゃんが出た方が私たちも嬉しいよぉ」
「そう言われてもな・・・」
これは俺だけの判断で下して良い問題ではない。俺はチラッと横にいる絹織 文音を確認する。絹織 文音は外を話には入らず車が行き交う外を眺めていた。
「なぁ、文音―――どうする・・・?」
「・・・・い」
「え?」
「・・し・・い」
こちらを向いていないからなのか絹織 文音の声はとても小さく聞こえずらい。
「ちょっと、聞こえな―――」
「したい‼」
ある程度静かな店内に絹織 文音の声は微かに響いた。
「・・・なら、しようか・・・うん」
あまりの返答に困惑する俺―――――いまだ、絹織 文音は外を見たまんまだ。
「じゃあ、決まりだね」
「やったぁ! 凛ちゃんと文ちゃんが出てくてるなら私頑張れるよぉ」
あっさりと決まった異色の組み合わせ。クラスの奴らに言ったら驚くだろう。だって、自分ですら驚いているのだ、半年前の俺らでは考えられないことだから。
――――お互いの事を下の名前で呼び出してからは目に見えない距離感も少しは縮まったのかもしれない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話を続けて更新していますので
そちらの方もよろしくお願いします!