――それが彼女である。(前)
六話目(前編)を更新しました!!
それではお楽しみください!
絹織 文音――――この女は意外と人気と真面目があった。遅刻欠席なし、授業はちゃんと受けていて、クラスでも順位はトップ、学年でも一桁に入るであろう成績を持っているし、容姿だって可愛い(喋らなければ)、だから、当然クラスでも人気がある。
同性には優しく、異性(俺を除き)にでも気軽に触れ合えるコミュ力の持ち主だ。同性からは信頼、異性からは好意を――――それが絹織 文音という女。
その、絹織 文音から手作りのクッキーを貰うやつは誰なのか。
俺は今日一日、監視していた。
朝の登校、今日も偶然に絹織 文音と会う。そこまではいつもと変わらないのだが、今日は少し違う。絹織 文音は大事そうに可愛い紙袋を手に提げているではないか。
さりげなく、その紙袋はなんなのか聞くと、動揺した感じに「なんでもない」と返された。
――――手作りクッキーに間違いはない。
靴箱に着くや、渡す相手の靴箱に入れるのかとこっそりと横目で見ていたのだが、そこはさらっと校内用のスリッパに履き替えて教室へと上がっていく。
――――直接、手渡すのだろう。
そして今、その紙袋は机の横に掛けられた状態で、四限目を受けている。
右隣をみると、一生懸命、黒板に書かれている文字を板書している絹織 文音の姿があった。
席が隣になって分かったことがこれ以外にもある。
絹織 文音という女は文字を書くときは左利き、ご飯を食べるときは右利き、つまり、両利きだということ。髪を耳にかけるという癖―――――これについては、何とも言えない感情に襲われた。
そして、理解できないこともあった。
女子高生らしからず、左手に握っているシャープペンシルは男の子向けの戦隊ものがプリントされたシャープペンシルだった。
名前は確か、ミラーレンジャー。まだ、俺小学生だった頃、鏡を使って悪者を倒していくというスタイルが当時、戦隊ものでは新鮮で人気だったのを覚えている。実際に、俺も大好きで変身ベルトなどを買ってもらった記憶が残っていた。しかし、変身ベルトなどは学校へは持って行けず、持って行っても叱られないミラーレンジャーの文房具、シャープペンシルを買ってもらってとても大事にしていたのも記憶にあった。が、今はそのシャープペンシルがどこへあるのか分からなくなっていた。大切なものは無くさないように気を使って生活をしてきた俺にとっては、どこへ行ってしまったのか今となってはさっぱり思い出せない。
そんな俺にとって思い出の濃いシャープペンシルを絹織 文音がなぜ持っているのか、なぜそれを大事に今だ使っているのか――――理解できなかった。
キーンコーン。
四限目終了の鐘が校内に響いた。
教室を出ていく教師、各々と席を移動して昼食を食べる生徒。昼休みにクッキーを渡すのだろうと思っていた俺の横の席で、その期待とは裏腹に弁当を出し、食べ始める絹織 文音。
結果、昼休みが終わっても机の横にぶら下がっている可愛い紙袋に絹織 文音が触れる事はなかった。
「それじゃ、元気に明日も遅刻せず来いよ~」
帰りのホームルームが終わる。結局、絹織 文音が大事な人というのにクッキーを渡すところを目撃することは出来なかった。でも、見逃したわけではない。その紙袋は絹織 文音の手にあるのだ、放課後という時間に手渡すのだろう。
たとえば、今みたいに俺以外誰もいない静かな靴箱で男を呼び止めて――――。
「渡すんだろうな・・・」
俺は靴に履き替え、外に出ようとして時、不意に後ろから名前を呼ばれ立ち止まる。
振り返るとそこには絹織 文音が立っていた。
「文音か、どうかした?」
「ま、まって!」
「え? あぁ、待つけど・・・・?」
―――一人で渡すのが怖くなったのだろうか。
「どうした?」
「あの・・・凛に・・・」
「俺に・・・?」
「り、凛に・・・こ、これ――――――」
キーンコーン。
『生徒の呼び出しをします――――二年・柊 氷崎 凛―――至急、職員室まで来なさい』
校内に俺の名前が響き渡った。
「あ・・・悪い、職員室行かなきゃ」
「え・・・・あっ! あ、そ、そうよね‼ バ、バカだから呼ばれたんでしょ! バカだから!」
「バカバカうるさいな!」
「さ、さっさと行ってきなさい‼ バカなんだから!」
「行きますって! そんな言わなくても・・・」
靴から校内用のスリッパに履き替え、職員室へ走ろうとした時、思い出す。
「なんだったんだ? 俺に」
「なんでもないわよ!」
「そ、そうか・・・わ、悪いな! それじゃ気を付けて帰れよ!」
「・・・はいはい」
なんで、怒ってんだ? という疑問よりなんで職員室に呼ばれたんだ? の疑問のほうが大きかった。職員室に呼ばれるようなことをした覚えはない――――悪いこともしていないし、良いこともしていない。そんな俺がなぜ、職員室に呼ばれなきゃいけないのか。
――――理由はこうだ。
「すまない、先生の勘違いだ」
誤報だったらしい。ほんとしっかりしてほしい、うちの担任教師は。大事な放課後という時間を――――呼ばれたせいで、なぜか絹織 文音の機嫌も損ねてしまったし、絹織家へと向かうのも遅くなってしまう。絹織 文音の機嫌を損ねた上に、文音様の機嫌まで損なってしまっては―――考えただけで、へんな汗が出てきそうだ。
急いで、靴に履き替え、いつものコンビニへと向かった。
向かう際に、静かに襲ってくるハイブリット車に轢かれそうなるが、間一髪で回避、運転手に謝り先を急ぐ。ここで、事故っては洒落にならない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
続けて次話を更新していますので
そちらの方もよろしくお願いします!