顔はあなたに似ているけど、背丈が私と同じくらいの赤い瞳の翼のある人
学校から学校への移動は自転車。
会社が用意した自転車は中古の俗に言うママチャリ。
空色のママチャリで地域巡回を名目にゆっくりと走る。
10分も漕がなくて次の小学校に辿り着く。小学校は二校あり、午前と午後で分かれている。どちらをいついくかは副校長以外には秘密にされている。理由は警備に支障をきたすから。
今日は坂の下にある学校から校門に立つ。フランス語で……。
ようは川のほとりにある学校。
つまり、見える転校生がいる小学校。
すでに登校は済んでみんな学校の中にいる。
学校の周りを一回りして異常がないことを確認したら時間まで校門に立って、以上で午前中の仕事は終わるはずだった……。
「これから六年生が、河川敷に行くので付いて行って下さい」
職員室に今日の予定を訊きに行くと、女の副校長先生はそう告げた。
これまでも何度か河川敷にはついて行っている。河川敷に行くということは今日の午前中の予定はこれで終わりということ。
一度河川敷に行くと午前中いっぱいは学校には帰ってこない。
待機して校門に立っていると子供達がガヤガヤと大量に出てきた。
顔見知りの何人かの女の子達が明るい笑顔で話しかけてくる。何度かついて行っているので僕が行くことを確認したかったらしい。
笑い声に囲まれていると昨日の転校生が目の前まで歩いてきた。小学生だが背丈はすでに僕より高い。僕は男にしては低い方だが目の前の少女の背丈は僕より十センチは高かった。
「あなたも河川敷に行くんでしょ、ちょうどよかった。色々あるんだ話が」
少女は僕にそう告げた。
取り囲んでいた女の子達が見慣れないその少女を見ていた。年端のいかない女の子達は若いというだけで幼くて可愛く見えるものだが、名も知らぬその少女のそれは美貌というものが若さに隠れているという感じで、大人びた服装をして化粧をしたら背丈もあるので小学生には見えないだろう。
その少女の言葉には有無を言わさない強さというか、強引さがあった。
先生に引率されて一組から順番に道路を歩きはじめたが、少女はまだ僕の横から動かない。僕が最後の組の最後尾について歩き出したら、彼女も僕に並んで歩き出した。
「どうしたのあれ。今日はいないみたいだけど」
彼女は小声で話しかけてきた。
「なにがかな」
「顔はあなたに似ているけど、背丈が私と同じくらいの赤い瞳の翼のある人」
ごまかそうとしようとしたが、表情で無理なことを悟った。
「見えないのなら今はいないのではないかな、僕もいつでも見えているわけではないから……」
彼女の瞳が輝いた。
どうやら色々ある話を河川敷につくまでの十分ほどの間にしようと計画したらしい。