これが答えなら、まだ……。
出口に向い、プラットホームを後ろから急かされるように誰とも知らない人と並んで歩く。
顔、顔、顔……。
疲れた、醜い、みすぼらしい顔が肩を打つけながら列を成す。
なぜ、生きるのだろう。そんなことを考えることがあるのだろうか、この群れた生き物は……。
気持ちが悪い……。
ただ死にたくない、死ねないから身体が壊れるまで、歩けなくなるまで立てなくなるまで、起きれなくなるまで、いや起きれなくなっても生きようと、惨めに惨たらしく尸のように震えながらも生にしがみつくのだろう。
嫌な気分がした、嫌な気になった、気にしなければ気にしないまま過ぎていくはずの気が違い、機として事を生み出す……。
見ず知らずの赤の他人が僕を取り巻くように動いている。
何かが間違っている、誰もが感じながら、それでもそれが何かを見つけられずに時を重ね老いて、止まる。
歩く速さを決められたように、人の群れに飲まれながら改札を抜けた。
表通りの道を踵を滑らせながら狭い歩幅で足早に歩いていると、反対側から気の抜けたような芯のない動きで歩く足、足、足……。
無造作に振られた腕、方向の定まらないつま先、まばらに揺れる腰、どこを見ているのか視線が揺れ、ぶれる顔……。
今、肘を胸に捻り込み……。
ここで膝頭を蹴り、俯いた後頭部に肘を落とす。
すれ違う度に相対する相手の動きに合わせ、心の中で不意に突発的に襲い来る、蹴りや拳を象り、その攻撃を迎え、捌きながら相対した者を地に倒す。
間合いを決める呼吸はいつでも意識しながら行う。
避けるのも打つのも一つの動きの途中でしかない……。
何人かを地に眠らせて、信号で止められた。
横断歩道の向こう側には若い女性が赤子を背負って信号待ちをしていた。
信号が変わり若い女性が歩き出す、僕は赤子を見ていた、横を通り過ぎる時、赤子は見ていた。
何もかもが真新しく映る世界で僕はどう映っているだろう……。
感じた瞬間、赤子の瞳が輝いた。叫ぶように笑った。
これが答えなら、まだ……。
信号は点滅から赤に変わった。