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心の命じるままに応じたいから、最適な、その他大勢を的にして矢を射るな

 もしも、もしもだ、目の前に決まりが通じない者が立っていたら、あらゆる決まりを破り、それでも罪に問われない、罰を受けることのない者が立っていたら、どうする?


 あらゆるという言葉の中には無差別の殺害も含まれている。

 そんなこと有るはずない、思いそして自ら否定したはずだ、ある。

 心を病んだ者、気が狂れた者を罪とし、罰する決まりはない。


 罪とは、罪を自覚する限りにおいてあり、罰とは罪を自覚する限りにおいて受ける、そのことの恐さを、怖さを、壊されて生きているから、無いと束の間でも感じてしまう。


 壊された恐さを感じて僕は生きてきた、だから罪と罰に触れない者を想定している。

 いつ如何なる時にいつ如何なることが起されようとそれに対処することを想定し、僕は息をしている。


 疾走してきた車体の扉が開いた。

 流れ出た冷気に触れながら内に入ると鼻をつく匂いが……。


 車内が真っ赤に染められている……。

 罪と罰に触れない、狂れた者が刃を振り上げ……。


 真っ赤な顔で何かを叫びながら……。

 時が鈍く流れ、音が消え……。

 自分の首筋を掠める刃を見つめている。

 服に小さい赤が……。


 膚に刃が触れる瞬く間、同時に外向きに捻られた手が狂れた者の首に触れ、弾けるように巻き戻りながら狂れた者の首筋に微かに浮き出た青い線を叩き千切る。

 糸の切れた操り人形のように、倒れた。

 狂れた者は動かなくなった。

 それがどのように狂れた者であろうと、終わらせるには血を断つしかない。

 何事もないかのように扉が閉まり、緩やかに流れ出す景色。


 やはりか……。

 考えていた通りに、多くの倒れていた者達が体を小刻みに震わせながら起き上がる、赤く染まった刃を握りしめて……。

 心の病みは瞬く間に、触れた者に移る……。


 景色が止まった。

 駅に着いていた。

 心象に描かれた映像が現実と差し替えられ、睨むような目つきで見下ろしている目の前の男と、目が合った。

 開いた扉に向い踵を滑らし、つま先を軽く上げながら男の前を横切る。

 何かをつぶやきながら男が舌打ちをした、何かを起されたとしても、膝が蹴りとなり相手の太腿を突き刺すより速く、男の起こす何かが僕に届くことはない。それに、もし何かに間に合わなくても、必要なら彼が僕の身体を動かす、僕が必要である限り、あれは彼を動かす。

 わかっている、遥かなる過去にあれに習った技に、敵はない。

 だから、男を微笑で見つめ、背を晒したままに、駅に降りた。

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