そう教えた神が僕を殺めることに、君は何も感じないのかい……
夏は暑い。
だから、文明の利器が必需となる。
だが、文明の利器の力はユニットバスの狭い空間にまでは及ばない。
汚れを水で流す二つのシステムを一つにした英知は恐らく合理的思考の産物だろう。
こんなことを述べたのはここが、いまが、とても熱いという事実の裏付けをするためで、クーラーの冷たい風が吹き付けない、一面が白の空間で時が経つのも忘れるくらい、狂気に落ちた心を病んだ者を想定し、応対の制圧技術を練っていたら血も、気も満ち溢れ、闘争の本能もそこに導いた欲情の奔流も制御し切れなくなり、過去の幻想を心象が象ったり現実には現れるはずのない現れを見ているような気がしても、おかしくはないという……。
だって目の前の相手は、殺す気で剣を斬りつけて来るのに、こちらは相手を殺すこともしてはならず、しかも武器も持たずに素手で取り押さえないとならないのだから、想像を絶する衝撃を与え眠らせるしかない。
もしも二度と目を開けることがない時は、それもまた御心ということ。
ここまで心に言葉を描いたら、彼が僕を見つめていた。本当、現実は小説より奇なりと言うけど確かに小説は小説家という微かな空間が描いたほんの一部でしかないけど、しかし稀にそのほんの一部が未だない現実を象る未定で予定の一部だということもある、それも寸分違わず起きる、まるで未来の予言のように……。
まあ、それに比べたら僕が描いた未来がずれて訪れるということはそれほど不思議でもないこと。
僕は熱かったシャワーを水に変えて浴びた。そろそろ出ないと初めての遅刻を体験することになる。
わかっているよ、神は殺すことなかれと告げたと言いたいのだろう、その冷たい微笑は……。
その為の技、技術だから、だから僕は……。
殺すことなかれ……か。
そう教えた神が僕を殺めることに、何も感じないのかい……。
つぶやくと、後ろに感じていた気配が消えた。
始まりの歌は、決まっていたのラストを思い出した。
心象を大切にして、事象を見つめ、今を切り取る。
気付いたら吸い込まれるように読み終わっていた。そんな感想を持たれるような小説を描くため、また今日も部屋の電気を消した。