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聖なる剣折れ、夢中の手が闇を裂く

 音の消えた闇の中で僕は門を閉ざす閂を切り落とそうとした。


 門を閉ざす閂に触れると剣が折れる。


 当たり前か、心に映る像を見てあの時の気持ち、感情が再び湧き起こった。


 思い出した、閂をどうやって開けたのか。城門の閂は一人では開けられない。


 確かにそうだった。


 剣を折った、既に矢はない。

 僕の命を、狂気する凶器から守るものはこの心許無い五体しか残ってない。


 身を裂くような狂気に晒されながら、あの時の僕は誰かの言葉で心を満たしていた。


 「剣を突き立てるつもりなら、手にするのは聖なる剣でなければならない。聖なる剣が君にわかるかい」


 沈黙でしか答えられなかった。


 考えていた、見たこともない聖なる剣をどうやって知ることが出来るのか。


 「君は、聖なる形がわかるかい」


 沈黙は続いていた。


 「聖というものがわからないなら、その形も剣もわかることはないな」


 「君には耳があるかい。口はあるかい。最後に、君は王を目指すかい」


 「王を目指さないなら君は聖を知ることはない。王を目指す者が耳にして、口にするものが聖というもの」


 「王は魂から心を発する。魂とは霊で神と象ることも出来る。魂は魄でもあるから鬼が云うのは白。白は光。閃きましたか、閂を開かないと明かりはない」


 「君が王を目指し、この門を開きたいなら癖を直しなさい。門は開かれる壁。病む者は聖なる王にはなれない。聖なる王は剣を突き立てることを赦される」


 「わかったかな、聖なる剣の形は」


 「わかりません」


 「そうか、素直だな」


 「聖なる剣は直剣だよ」


 「なぜなのか理由がある。それははじめは直しかないから。純なのさ聖は。鈍くては、鋭くなくては切れない。私の説きはここまでだ」


 ぼくはあれから自らを剣とするべく技を編み出した。


 剣が折れたことにして足元に落とす。

 自らの身体だけで武器を持つ相手を倒さなくてはならない。


 剣よりも速く動く身体が必要になる。

 なら、剣を超える速さで動く武器を思考する。最速の武器それは鞭。


 身体を鞭に出来れば剣を超える速度を得る。

 どうすれば身体を鞭に出来るのか考えた。鞭の仕組みと原理を人体の構造に当てはめて最速の動きを露わにしていく。


 最速の動きに達した時、この世界を動かしている理が光の筋のように閃いた。

 達した者だけが知る真実、達する者は遅く来た者。犠牲の羊だけが美しく天を翔る。


 鞭の仕組み、原理は簡単な動きで、それは単純な仕組みでその仕組みを一言で言えば糸にしか戻れない。


 糸は押して動かすことは出来ない、糸を動かす時は引き上げて落とす。


 闇から無数の人の姿が現れていく。

 それは既に死んでいるかのように穢れた姿で表された、僕が日々出会い、感じる、心を病んだ者達。


 心に描かれた危険な人物像、フラフラと近づいて来ては手にした刃物で切りつけて来る死体そのままだった。


 意識で全身を包むように、柔らかな呼気に合わせて神経を張り巡らせ、気を感じると柔らかな気を吸い込むように意識の真ん中に集め、密度を高めながら圧力をかけて、気を勁に変える。


 死人のような肉の塊の一部、手足が触れた瞬間、吸気とともに意識的に中心部まで持ち上げていた身体を、息を吐き切ると同時に、落とす反動を使って全身を捻り上げ、剣に見立てた手を翻し、闇に浮かんだ肉の塊に触れた瞬間、腕を反転させながら叩き切る。


 目の前の首が落ちると、背後にいた顔が見えた。

 叩き切った反動で腕を捻りながら身体に引きつけ、足を踏み出すと同時に肘を肉塊の首筋に捻りながら叩き込んだ。


 間髪入れずに背後から襲いかかってきた刃物を、肉塊の手首に肘を落とすようにして躱し、身を震わせるように踵を振り出し、膝を蹴り折ると、踏み込みながら反対の足を折り畳むように振り上げ腹に膝蹴りを捻り込み、反動で身体を回転させながら肉塊の首筋に向かって真上から捻り込んだ肘を落とす。


 と、同時に肉塊の大腿部の間に足を差し込みつつ、落とした肘を反転させながら伸ばしつつ、身体を引く勢いで手を振り落とし、肉塊を地に叩き付ける。


 意識を他の肉塊に向けると無数にあったはずの姿は跡形も無く消えていた。


 聖なる思いを失った、心の狂れた者達と対するためには自らも狂れる領域に立たなくては相手は出来ない。


 自らに宿る聖なる思いを剣に変え、断ち切らなくては、人の業を持ってして神技となることはない。


 窮まった動きをさせられた身体が小刻みに震え、熱を出していた。

 耳の奥で弓から放たれる矢のような、大気を切り裂く音が木霊している。


 その木霊こそが、勁の印ということは勁を射れる者しか知らない。

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