疾風に勁草を知り、厳寒に貞木を識る。
かの国で生まれた武の真髄を勁という。
それはかの国の言葉では強い力という意味の言葉でしかないが、いかにして強い力を生み出すか、本物の勁を生み出すかは、秘中の秘とされ、真伝と言われる真実を伝えられる者は一門の伝承者と限られている。
中でも奥義を伝承される者は疾風に勁草を知り、厳寒に貞木を識る者とされる。 勁とはなんであろうか。貞とはなんであろうか。
素手であろうと、剣を持とうと、身体を動かして相手に破壊力を伝えることに変わりはない。筋力のない者がどのようにして力を生み出すか、それが体術の要であり、筋力のない者がどのようにして速さを生み出すか、それは体術の理を解くことで説ける要訣となり語れる。
この世界のありとあらゆる物を理が生み出し、理が動かしているならそれがたとえ剣技であろうと、理が生み出し動かす身体を、自らの意思で自在に動かすためにはこの世界の理を解かなければならない。
解くためには、ほどくためには……。
コエデハないナニカがヒビイテ、クル、クル、コエテ、クル、シンドウ、オトでもナク、膚を刺すようなシンドウが、サツイ、さつ意、殺イ、首筋をカスメル、ヤイバ、ヤバい、ヤバイ、テキはハルカに格上、剣を向けてはナラナイ相手に向けた、抜いた剣はもうモドレナイ。シがマっている。おとに、オトにナニヲ象るかで意味と内容が変わり、カンジがカワル、ニゲタイ、イドミタイ、キザシ、感じる微かな、僅かな異なりで意味と内容が変る領域、誤解と理解の狭間に、たったひとつのしがある。
タダシイ、エラビ、イマ、この隙間に、閃くように腕を捻り込みながら前に出した足を大腿部から突き上げるように後ろ足に引きつけ身を翻し、内側に捻り込んだ腕を手首から旋回させ、相手の避けた剣に触れることもなく解けるように旋回した剣が敵の項を捉えた。
敵が気づき反応すると同時に剣を引きつけ、剣を左手に持ち変え身体の反動を用いて心臓に剣の切っ先を突き込む。
止まったような時で相手は静かに倒れた。
気持ちは閃きに至った。
私は利を用いる。
無理、不利、を有利に変える真理、無意識の集合意識に通じることで知識を知恵に変える。
剣を舞わせるということは言い訳の出来ようもなく殺すための技を磨くということ。
剣は切れる。
切れば血が出る。
血が止まらなければ死ぬ。
それがオモチャであろうと剣という形を心に描くなら、心は真剣に変る。
真剣であれば真面目に、面は、じに変る。
じで変換しても面は出て来ない。
そのことに、そのことを不思議に思う感性がなければ音でもなく声でもなく聴こえることもなく響いている、緘黙の、沈黙の振動、天意に気づくことはないだろう。
一門の奥義が得たいなら天意は疾風に勁草を知り、厳寒に貞木を識る。を可とするために荷を与えるを知れ。
ただそれだけが閂を開ける錠となる才を与える。




