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闇に剣走り、光舞う

 深夜、目を覚ますと真っ暗な裏道を歩いて公園を目指していた。


 公園の片隅、外灯の明かりが届かない場所で鞄から剣を出す。


 公園に着く頃には闇に目が慣れていた。


 その剣は中華街で買った玩具。


 柄の先、刃の部分が伸縮するようになっていて伸ばすと剣の形になる。


 この剣なら万が一に警官に職質を受けても問題にならない。


 玩具で練習しても問題はない。


 外で練るのは正しい動きであり、勢いを生み出す流れと形。


 玩具の剣を真剣に見立て、身に気を張り巡らせゆるやかに、降ろした切っ先を反転させ、仮想の敵を突くしぐさをする。


 剣の先が微かに震える。


 心が真剣を象った時、澱のように濁った底から強張った感情が流れ、いつの時、遥か過ぎた時の思い、恐れが、心を覆った痛みが、身体に甦り闇に幻想が描かれる……。


 僕は必死に命乞いをしている。

 悲鳴、怒号、嘲り、嘲笑が混ざり合い感じたことのない感情が震えながら背を這い上がって来る。


 命乞いをしている者を蛮族の刀は容赦なく切り裂いていく、自分以外の者が皆、倒れ血に塗れ、自らに刃が振り降ろされた。


 嘲笑とともに振り降ろされた刃は空を切った。


 自分で動いた感覚はなかったのに自然に倒れるように身体が前に出た時、鞘から抜き放たれた剣が目の前の男を貫いていた。


 吸い込まれるように刃が首を突き抜けると、痙攣したかのように震えた身体は、手は、止まらなかった、腰を左右に切るように動かし、左右に立つ男を手首を翻しながら切り裂くと二つの首から血が吹き出した。


 僕は微笑を浮かべながら血に煙る中で白刃を舞うように走らせ、その場に立つ者は自分だけとなっていた。


 身を守るために腰に下げていた剣が、初めて剣としての役目を果たした瞬間だった。


 僕は一人だけ生き延び、血に濡れた剣を見つめた。


 あれから、あの時の僕はあらゆる剣技を学んだ。


 最も速く剣を走らせるにはどうすればいいか、剣を持つ者なら一度は最速の剣技を夢に見て、多くの者達が剣に倒れ、夢のまま死を迎える。

 

 煙のようにおぼろげで微かな記憶の断片は夢幻のように現れては消えていく……。


 それでもおそらく無意識という意識の中で気づかせずに僕を操っている。


 深夜に無性に剣が振り回したくなったのには気づけない訳が隠れている、今生でも僕が剣を手放せないのにも意味と理由があるだろう、でも今はただこの時を剣と一つに……。


 闇をゆっくりと吸い込んでいくと意識と大気が一つに溶けるような感覚が生じ、その感覚を維持しながら身体を動かせば大気が水のように身体に纏わりつく感覚が出来る。


 この感覚が意識と肉体が一つに重なった気を実感として体現している感覚。


 この感覚を気感というが、気感は極めて微かな磁気や熱気を電気と変換して感じる感覚であり、光であれ、音であれ、その本質、正体は振動に過ぎない。


 あらゆる物体はその物体固有の振動を持つ。


 その微細な振動を感知することが出来れば、相手が動くより先に相手の動きがわかる。


 なぜなら相手は動く前にその動きを表現しようと心を動かし、身体を動かすが、身体を動かしている実感が微細な感覚まで及ばない、届かないなら、極めて短い感知出来ない時があり、その自身で動かせない極めて短い時に相手に攻められたら守ることが出来ないという理屈で結局の所、武は速に過ぎない。


 極めて短い感知出来ない時とは、そのまま反応出来ない時ということで、反応出来ないまま、気づいた時には首から血を吹き出していることになる。


 あの時、命を拾って理解した、万象に通じる道理を。


 万象に通じる道理から剣の理を導けば技となる。


 如何なる優れた型、動きでも、如何なる攻撃にも万能というわけにはいかない。


 自らが攻める時こそ、最も守りが薄い時であり、逆に言えば相手が攻める時が最も攻めを破り易い時となる。


 それらはすべて相手よりも速く動けることが条件となる。


 その条件を満たすにはどうすればいいか、答えは対にある。

 それは誰よりも遅く剣を抜く者が誰よりも速く剣を走らせる者になることの必然を生み出す道理となる。


 速さは速さでは求められない。


 速さを求めるなら遅さを求める。


 どんなに遅く動いても均衡を崩さない動きを求めた時、対にはどんなに速く動いても均衡を崩さない動きが与えられる。


 達した者は知る、速は息にある。


 才は最を、対を知る。


 だから、僕はあの、剣にすべてを賭けた乱世の時を切られることなく生き抜いた。


 自らの心は文を手にし、対にして、生きる。

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