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だめな僕のでたらめな……

 あまり、人を羨むということはない。


 けど、小説が好きで小説を描いている人は、小説が好きで小説を読んでいる人は羨ましい、いや、やはり、羨ましくも妬ましい。


 僕は嫌いだから。

 物心が壊れたあの日から、あの日以来……。


 この世界が嫌いだから……。

 だから……。


 僕は感じない、心が壊れた痛みを、嫌い……だから……いくら彼が愛を説こうと、愛の正体を大嫌いと解こうと、僕が世界を好きになることは、ありえない。


 嫌いな、大嫌いなこの世界でいつまで僕は生きないといけないのか……なぜ、僕は生まれたのか……答えはいつか、僕が決める、いや、僕の中の彼が決める。


 これは僕の物語、いや、僕の小説。小説が嫌いな、言い方を変えれば小説が好きでない僕が描いた透き通る世界の小説。


 自己紹介がまだだった、僕の今の名は多田健一。ただ、多田という男の子供として生まれたから多田と呼ばれているだけだけど……多田さんの名が正光で、正しい光とかそんなことはどうでもいい偶然にしか見えない、どうしようもない必然だけど、この世界で言葉にならない暗号を解読出来るくらいの位階を持つ者にしかそのことはわからない。それは僕の名、健一にしても同じこと。世界中に健一と名乗る者はいる。だがそれは、ただの健一でしかない。暗号を解読出来てはじめてその名が意味を持つ。つまり、その他大勢の人にとって僕は、ただの健一に過ぎない。


 容姿についても言及しておくか、容姿は眉目秀麗ということにしておく。あとは歳だが、歳は……本当のことを口にしても嘘にしか思えないだろうから、だいたい見た目が少年と中年の間で、落ち着いた雰囲気の青年ということにしておくと、この先の出来事にとって都合が良さそうだ。


 僕自身は鏡を見ることはほとんどない。見ても気持ちの良いものが映ることはないからで、僕が目にするのは、だめな人間の姿。


 そう、鏡は真実を語る、だめな人間のでたらめな人生の結果が僕だと、音もなく語りかけ……だから、小説は嫌いなんだ、だめな僕のでたらめな……を描くことになるから。


 でも、大嫌いだから描けると知ったから、彼が僕に教えたから、だから僕は描く、小説家、冠梨惟人として、大嫌いな現実のこの世界を透き通る世界と変えるために……。


 白い、こじんまりとしたユニットバスの中、洗面台の鏡を見ながら、僕は自分自身を確認するように独り言をつぶやいた。


 水垢で汚れた鏡に彼が映っている。

 僕はそっと振り返る。

 「本当、僕は……」

 言葉にしなくても彼には通じる。

 なぜなら、彼が僕というでたらめな人間だから。

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