4. ご主人様?
歯車の回る音が聞こえる。
「うぅん……?」
ゆっくりと目を開け、手で目を擦った。
「……。」
私の目の前には大きな翼の生えた5、6歳位の少女が居る。少女は両手で私の体を抱き上げた状態で私を見ていた。
「ぁ……。あなたが、私のご主」
「すてきっ!」
言い終わる前に少女は歓声をあげて私を抱き締める。
「むぐぅぅ」
「おはなしできるおにんぎょうなんてとってもすてき!」
一通りの抱擁が終わると、少女は私を顔の高さまで持ち上げ、私の目を真っ直ぐに見つめる。人形が言葉を発したのが物珍しかったのか、少女の目は爛々と輝いていた。
「わたし、リヴィア・メサノーチェっていうの。あなたのおなまえは?」
「ご、ご主人様のお好きなようにお呼び下さいませ。私に名前はありません。」
生前の名前を言おうかと思ったが、自分が人形であることを思い出し、言うのを止めた。
「すきによんでっていわれても…。」
少女は少し首を捻って考えると、ポンと手を打つ。
「そうだ!メイ、なんてどうかな?メイドのメイちゃん!」
「メイ、ですか?」
少し安直かと思ったが、相手は5、6歳の子供と思うとほほえましく、嬉しかった。
「どうかな?」
「……とても素敵な名前です。」
「それじゃあ決まり!よろしくね、メイ。」
「はい!」
私が頷くと、少女は満足げに頷いた。
「あ、それとね……わたし、メイとはおともだちでいたいんだぁ。」
「お友逹、ですか?」
女はこくりと頷く。
「だからその……なんとかです、とかはいらないの。わたしのことも、リヴィアってよんで?」
「ええええっ!?で、ですが私は…」
「だめ!」
強く制止されてしまい、思わず固まってしまう。
「リヴィア、あまり強制するんじゃありません。」
「んぅ…」
不満げな顔の少女を、彼女の父親と思しき男性が抱き上げる。
「だってわたしともだちいないんだもん……。」
「そ、そうなんですか?」
少女は俯きながら小さく頷く。
「同じ年頃の子供が少ないんです。」
「……。」
少女の寂しそうな顔を見て、少し可哀想に思った。
「……ねぇ、メイ?わたしとおともだちになってくれる?」
「わっ…わかりました!がんばりま……はっ!」
うっかり敬語が出てしまい、少女が不満げな顔になる。
「あー、えとー、よ、よろしくね?」
「うんっ!よろしくね、メイ!」
少女は輝くような笑顔を浮かべると、私を抱きしめた。