3. 運命の出会い
ある日地下世界の中に存在する、とあるヴァンパイアが治める小さな土地に骨董屋の馬車が立ち寄った。物珍しかったのか大勢の町人が馬車を囲むように集まって品物を見ている。
「おとうさまっ!はやくはやく!」
「リヴィア、あまり慌てると転んでしまいますよ。」
リヴィアと呼ばれた少女は、父親を手招きしながら馬車に向けて走る。骨董屋がよほど珍しかったのだろう。
「領主様ではありませんか。御息女様と散歩ですか?」
「りょうしゅさまだ!」
リヴィアの父親はこの土地の領主らしく、すれ違う人々は皆一様に彼に笑顔を向ける。
「おとうさま、なにかかってもいい?」
リヴィアは馬車を指さしながら父親に笑顔を向ける。父親もそんなリヴィアの顔を嬉しそうに見る。
「そうですね。何か良いものがあれば頂くのも良いでしょう。」
「やったぁ!おとうさま、わたしずっとおにんぎょうがほしかったの!」
「リヴィアが気に入る物があると良いですね。」
リヴィアは力強く頷くと、鼻歌を歌いながら父親の手を引いて歩き始めた。
馬車に積まれた銀食器やら硝子製品の中で、リヴィアは一体の人形に目を奪われていた。人形は黒いスカートに白いエプロンを着せられていて、肩の辺りで綺麗に切り揃えられた
茶色い髪が他の金髪やら赤髪やらの人形とは少し違った雰囲気を醸し出していた。
「それが気に入ったのかい、御嬢さん?」
黒いフードを目深に被った女がリヴィアに声をかける。
「えっ?あっ、はい。」
「お目が高いね、それは特別な人形だよ。」
「特別、ですか。」
父親は女の言葉に不審げな顔をする。
「そう、特別…。発条を巻けば解るさ。どうだい御嬢さん。お安くしておくよ。」
リヴィアは好奇心に目を輝かせ、人形を見つめる。
「金貨10……いや、7枚でどうだい?」
ただの人形にしてはやけに高い金額を提示され、リヴィアは父親をちらちらと見ながら人形を雑貨の山の中に戻す。
「リヴィア、その子が欲しいんでしょう?何故戻してしまったのですか?」
「おとうさま、わたしはもうこどもじゃないから……おねだりなんてしないよ。」
「リヴィアは良い子ですから、たまの贅沢ぐらい誰も咎めたりはしませんよ。」
そう言うと、父親は人形を山から抱き上げリヴィアに手渡した。
「いいの?」
「ええ。金貨7枚、でしたね。」
「毎度ありがとうね。ああそうだ御嬢さん、家に着いたら巻いておやり。」
女はリヴィアに装飾の施された小さな発条を渡した。
屋敷に帰ってきたリヴィアは、馬車に揺られて乱れたのであろう人形の髪を整えていた。
「~♪~♪」
髪が綺麗に整ったのを見て、リヴィアは満足げな顔をする。
「おとうさまっ!どうかなぁ?」
「とても可愛らしいですよ。」
父親に人形を見せて、嬉しそうにはにかむリヴィア。
「あっ、ぜんまいまかなきゃ!」
「発条、ですか。」
父親は不安げに何か言いかけたが、期待に胸を膨らませているリヴィアの顔を見て口をつぐんだ。
「でも、ぜんまいまいたらなにがあるのかなぁ?」
首をかしげながらも、リヴィアは人形の背中の穴に発条を差し込み、ゆっくりと回し始めた。