ヘンペルのカラス Z 【選択肢2・4】
選択肢2と4は冒頭の細部が異なるだけで、流れは共通になります。其の為、ここでは選択肢4の流れで話が進みます。ご了承ください。
「実はカードが……私は……」
「おやおやぁ……ハトがなにか言いたいみたいだよ、みんな?」
「ハト……?」
「…………」
「ハト、言いたいコトがあるなら聞くよ。話し辛いコトだったら、後でボクの部屋に来てくれてもいいんだよ」
「アレックス……私、その……カードもってくるね」
「うん、待ってる」
【便箋も持ってくる】
【カードだけを持って行く】
(カードだけだと誤解されてしまうだろうから、便箋も持って行こう)
鳩羽が食堂に戻ってくると、待っていた全員の視線が一身に突き刺さる。ごくりと唾を飲んだ鳩羽は、平静を取り繕ってアレックスの前まで足を伸ばす。
「……これが、私のカード。私は――処刑人だよ」
ざわっと驚愕の声が漏れ、全員がカードに齧り付くようにまじまじと見つめだす。
カードの悪趣味な様相に顔を顰め、それから便箋を読み出していくうちにその顔は凍り付いていく。
【あなたは処刑人だ。裁かれた殺人者に罰を下す処刑台であり不運な奴隷である。
黄金の秩序を保とうとする調和の立場だからこそ、あなたの裁きが皆を死へと掬いあげるだろう。
あなたが仕事を果たさないとき、それはあなたたちが殺人者を誤めてしまったときだ。あなたはシシャの仲間である】
「……殺人者って、なに……?」
「ひ、ひとごろし、ですよね、お、おおおれっ、いやですよっ! こんなところいやです! 帰りたい!」
「や、やめてよ! こんなのタチの悪いイタズラに決まってんじゃん!」
「だったらここは何なんですか!? おれたちをこんなところまで来させて、それもイタズラだって言うんですか!?」
「し、質の悪いテレビ番組とか……ねぇよな」
「おいおいおい、ちょっとこりゃあ、シャレにならんのじゃないの……?」
「……ハトは、殺人者の仲間なのかい?」
「えっ?」
アレックスがその言葉を発した途端、気味の悪い沈黙が辺りを包む。一歩、引き攣った顔の海松が引き下がった。それに倣うように、茶雀や菜種も後ずさり出す。
「な、なんで? 私は殺人者の敵だよ。信じてってば」
「敵の敵が味方とは限らない……よね、ゴメン」
「菜種……?」
「こ、ここを出る為だったら、なんて思ってないですよねぇ……?」
「思ってなんかない!」
「みなさん。動揺する気持ちは分かります、俺も同じ気持ちです。ですが、今は落ち着いて話を聞いてください」
「カルマ君……?」
「処刑人ってのは、殺人者の同類だろう。そんなのを庇うのは、それすなわち殺人者の仲間ってワケだけど……どうなんだい、坊ちゃんよ」
海松が声を低くし、威嚇するような眸で2人を見下ろす。鳩羽は海松を睨み返し、カルマは静謐な色を湛え海松を見返した。曇りのない眼差しに海松の方が折れ、顔を背ける。
「彼女は殺人者を処刑する立場にありますが、現実に実行する事は考えられませんし、第一に処刑人は人殺しを罰する立場です、みなさんが殺人者でなければ恐れる事はありません。……そうですよね、アレックスさん?」
「……そうだね。ボクも少し混乱したけど、ハトがソイツらの手先だとしたら、わざわざボクらにカードを見せにくる意味はない」
「で、でもさ、ハトがまだ隠し持ってるかもしれないよ。2枚目の便箋だとか、もう1枚のカードだとか、そういうのがあって、そのせいでみんなに打ち明けないといけなかったり……」
「菜種、どうしてそんな……私達、仲間じゃなかったの……?」
「だ、だって! だってさ、ぼくたちは赤の他人だろ!? 会ってまだ数時間経っただけの!
それにこんな……こんな普通じゃ信じられないような出来事が立て続けに起きて……ぼく、もうわかんないよ、いっそカードの話も忘れて、共同生活を強いられてるだけだって思いたいよ……」
「こ、こんな生活、嫌です、続けたくありません……!! 窓もない、外にも出れない、食料だっていつかは尽きるし、電気が通ってるのだって保証もない、お互い何も知らない人達なのに、何も起こらないってどうして信じられんですか、今だってこうして起きてるのに! こうやって変な事ばかり起こってるのに! そんなの信じられるはずありません……!」
「うるさい! うるさいうるさいうるさい! ギャーギャー喚かないでよ、うっとうしい!」
「3人とも、落ち着け。僕達だって混乱しているのは同じなんだ」
「私は違う! 殺人者の一味なんかじゃない! それなのに、どうしてこんな疑われないといけないんだ? 理解できない、アレックスが言うように私が怪しまれるのを覚悟してまでカードを差し出す意味ってなに? 教えてよ、菜種」
「だ、だから、部屋を調べればいいじゃんか」
「いいよ? 何でも調べてよ。それ以上何も出てこないし、私は潔白だから」
「オッサンはね、虫も殺せないような性格の同僚が、奥さんを殺したってのを知った時衝撃だったんだよ。まさか、あんなやつがってね。
だから、外見から年齢、性別、そういうので判断するのはバカげてると思ってるんだよ。人を殺すだけだったら、遣り方は一杯あるもんね?」
「へえ、それは殺人者申告と見ていいのかな、海松さん?」
鳩羽は揚げ足をとってニヒルに笑む。海松は一瞬眉を顰めたが、すぐに挑発的な笑みを象る。
「お嬢ちゃんも疑うってハナシよ。あたしはこんなワケの分からないトコロで死ぬのは御免だ。
アレックスはああいったけど、鶸柚嬢ちゃんが言ったようにお嬢さんなりの考え方で、ここで勝負を仕掛けに来たってだけかもしれないだろ。
あたしらが把握してる情報はあまりにも少ない。全員が情報開示に協力できない時点で、他にも色んな隠し玉が残されて然るべしってね。それだからオッサンは鶸柚ちゃんの意見に賛成よ」
「オロロー? みんな、堂々と人を疑いすぎじゃない? こういうのはもっとこう、腹の内で疑って表ではニッコリしとくモノでしょ。ねえ、山鳩クン?」
「俺にそんなのふるなよ……」
「だってキミ、さっきから黙りっぱなしだし。テグスクンとちがって、エンリョするよーな性格じゃないでしょ? ここはいっちょ、キミの意見も聞いてみたいと思ってね」
「お前が……お前こそ、何だよ。仕切り屋のつもりか?」
「ボクはそういうオシロサマの意見も聞いておきたいな」
「んー、まぁねぇ、じゃ、言っちゃおうか。――バカじゃないの」
ニッコリ笑顔で放たれた罵倒に、一瞬、全員の思考が止まる。清々しい笑顔とは裏腹な言葉に処理が遅れたのだ。
「まだなんにも分かってないのに、気を急いてるよねぇ? なんでかなぁ?
殺人者が居るって情報は、処刑人のカード情報からだけ。後は単なる妄想に妄想を重ねただけ! よくもまぁ、そこまで何の材料もないのに暗い話に持って行けるよねぇ、アハハハハッ!」
オシロサマは可笑しそうに腹を抱え、笑い出す。愉快そうな表情を見て、山鳩が彼の胸倉を掴み上げた。
「ぐえっ……なーに?」
「ウゼエから黙っとけ」
オシロサマはニコニコと満面の笑顔を崩さず、けれども口を閉ざす。山鳩が手を放した。
「さもありなん。一理あるな。我々は殺人者が居ないにも関わらず、居ると決め込んで自ら自壊の道を突き進んでいるのかもしれない」
「……かもね」
言葉だけの同意を浮かべる菜種は苦虫を噛み潰した表情だ。他の者は形すらも示さない。
「処刑人と言った誤解を招きやすいカードがあるんだ。疑心暗鬼を煽るだけ煽り、無実の者たちが殺人を引き起こすよう画策しているのかもしれない」
「田中さん、誘拐犯の人たちの事、知ってるみたいなそぶりで話すんですね」
「気のせいだろう。茶雀、君の神経が過敏になっているだけだ」
「かもしれない、かもしれないはもう聞き飽きたんだよ、田中。あたしは決め打つ。でなきゃ、今後の動きも決めらんねえ。だろう、アレックス」
「そうだね、ここまできたら、そういう話になるのかな……」
「し、しっかりしてくださいよぉ、アレックスさんがリーダーみたいなものじゃないですかぁ」
「ボク? ボクは提案しただけで……」
「オッサンだってそう思ってるよ。アレックスは人を纏める力がある。オッサンにゃ肩の荷が重い重い」
「海松……」
「信用出来るかは置いといて、そういう人がいないと話が先に進まないし、ぼくはだれがリーダーを名乗ろうとどうでもいいよ」
「おっ、おおれもっ、アレックスさんは頼りになる人だと思います……!」
「僕は僕以外信じるつもりは毛頭ない」
「……。黙ってて疑われるんだったら言わせてもらうぜ。俺は反対だ。
これってこの中に殺人者の役割を着せられたヤツが居て、ソイツが人を殺さなきゃ出られないって話なんじゃねーのかよ」
「煽り癖は酷いけど、オシロサマの言う可能性だって十二分考えられる。考えられない人達こそ――何か、他の事を知ってるんじゃないか?」
「ハトちゃん、自分が疑われたくないからって四方八方にヘイト撒いてたら、四面楚歌になっちまうぜ?」
「もうなってるじゃない。海松も菜種も私を疑ってる。黙ってる人たちだって遠回しに疑ってるって事を肯定しているだろう? 冗談じゃない。
疑心に囲まれて暮らすのなんて、私は真っ平御免だ。監視される謂われも無い!」
「……ハト。それなら、ハトはどうするつもりだい?」
(考えろ……私には、どんな道が残されているんだ……?)
【反撃する。「本当の処刑人は、カルマ君だ」】
【防御する。「だったら、引き籠もってやる」】
此処まで読んで下さって有難うございました!