7「いや、止めろ」
俺の記憶の中にある柊音葉の印象は“抜けている”だ。
妹 留衣の親友で幼馴染みだから必然と彼女と会うことは多かった。
真面目でしっかり者だがどこか抜けている彼女は昔サイダーと日本酒を間違えて飲んでしまった。
親父のなのでかなり度数は高い筈の酒を一口飲んだ彼女の一言。
「苦いよこのサイダー」
……全く酔うこともなくケロリンとして言ってくれた。
後で知ったのだがお袋の親友 早苗さんもかなりの酒豪でどれだけ飲んでも酔わないらしい。
遺伝とは恐ろしい。
そんな彼女との付き合いは長いが意外にもあまり話したことはない。
別に音葉が嫌いなわけではない。
(後に結婚までいったのだからわかるはずだ)
ただ幼馴染みと言う以外は接点がなかった。
それだけだ。
「留佳先輩」
「……なんだ」
「……留衣はまだですか?
あれこれ約束の時間から20分経ってますよね?」
「……」
音葉の言葉は俺の方が言いたいものだ。
何で留衣がいない?
あいつだろう?
俺に文化祭の案内を頼んだのは。
11月公立俺たちが通う公立高校の文化祭。
1年と言うこととナンパに会うと言う理由で無理矢理同行をさせられることとなった俺は現在音葉と共に留衣を待っているのだがなかなか来ない。
正門で待っているのに来ない。
右隣にいる音葉は呆れたように溜め息をつくだけで文句一つ言わない。
さすが、幼馴染み。
「後できっちり懲らしめないと」
「……程々にな」
「善処します」
そう言って音葉はまだまだ子どものようなあどけない笑みを浮かべる。
初めて見る彼女の笑みに俺は一瞬目を丸くするが直ぐに無表情に戻す。
15年も幼馴染みをしているが彼女と殆ど接点のなかった俺にとって彼女の笑みは新鮮で愛らしいものだ。
可愛いげのない妹とは大違いだな。
結局留衣がやって来たのはその5分後。
なんでも裏門に呼び出されて10人ぐらい知らない男から告白されたらしい。
「いい加減に去れって思ったよ!」
「説教する気満々だったけどやっぱり止めとくね」
怒りと苛立ちを露にする留衣に音葉は苦笑しながら留衣の頭を撫でる。
留衣もようやく落ち着いたのか息を吐いてから音葉を見る。
「なぐっ「止めなさい」
「……」
さすが、幼馴染み。
留衣の言いたいことを瞬時に理解した音葉は真顔で留衣を止める。
留衣は不満なのか口を尖らせている。
「むぅ!」
「暴力騒ぎは駄目!」
「なら、暴力じゃなかったらいい?」
「ご自由に」
「いや、止めろ」
慌てて留衣と音葉の会話に割り込む。
まさか常識人の音葉が流すとは思わなかったので少しずつ驚いた。
「止めないでよ!
あいつら死よりも恐ろしいものを見せてくれるわ!!」
「たかが告白されただけだろ?」
「音葉との時間を邪魔されたのよ!?」
「いや、知らん」
「馬鹿兄貴!」
怒りからなのか顔を真っ赤にしている。
なんで俺が怒られるのか全くわからん。