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平均な兄、天才な妹  作者: 夜桜
幸福の道標編
38/40

38「無理するな」






とある休日、沙耶さんもお父さんも来ない今日は留佳さんと二人で朝からまったりとしている。

妊娠がわかる前から過保護だった彼は妊娠が分かると過保護を通り越してしまうぐらい私に何もやらせない。

買い物は勿論家事全般、全て留佳さんが率先的にこなしてしまうからやることがなくかなり暇。

仕事で疲れているはずなのに過去にみたことのないぐらい嬉々として家事をしているので何も言えない……。

超人か!!

ソファーに座ってため息をついていると、

「音葉、何が欲しい?」

ダイニングキッまチンからひょっこりと顔を覗かせ留佳さんが声をかけてくる。

いつも通り無表情だけどどこか柔らかい雰囲気は留衣にそっくり。

思わず苦笑してから私は口を開く。

「食欲がないのでいいです」

「分かった、シャーベットでも用意する」

「……会話のキャッチボールする気ないですよね?」

かなりの変化球が飛んできてフェンスを越えた気がするのは気のせいじゃないはず。

最近の彼は「食欲がない」と言っても何かしら私が食べれそうな物を用意することが多い。

「せめて一口は食べた方がいい」

そう言って持ってきてくれたのは手作りの可愛らしいシャーベット。

少量なのはあまり食べれない私への気遣いで心がホッとしているのが分かる。

つわりの時期になると今まで食べれた物が食べれなくなると言うことは多々あるらしく私の場合、もうご飯全般が無理という最悪な状況。

かろうじて甘くて冷たい物しか食べれない。

日に日に痩せていく私を心配した留佳さんは出来る限り食べさせようとしてくれるがこれがなかなか難しい。

今だって半分で限界だったりする。

スプーンを置き胸の中に溜まる気持ち悪い空気を吐き出す。

「はあ……」

「横になるか?」

「いえ、横になったらもっとしんどいからこのままでいます」

そう言ってから私はソファーに深くもたれる。

ソファーの柔らかさに気持ち悪さが緩和されることもなくむしろ余計に辛いかもしれない。

「……うう、お母さんって凄い人だったんだ」

「早苗さんは別格だ」

「一応私の母親ですが……?」

「深夜勤務を笑顔で乗りきってから真也さんと旅行に行く人と体力を比べないほうがいい」

「……」

変に納得してしまった。

と言うか、留佳さんは私の母親を何だと思っているのか気になる。

いつも通り無表情で私に気を使ってか同じシャーベットを食べている。

ご飯は自室で食べているみたい。

「もういいのか?」

「うん、ごめんなさい」

「無理するな」

留佳さんは少しだけ微笑んでからソファーから立ち上がり私の頭を撫でてから食器を片付け出す。

「……(前々から甘いとは思っていたけど結婚してから余計に甘くなったかも……)」

過保護過ぎる旦那さんに思わず苦笑してしまう。





近くなった留佳さんとの距離感。

それに比例するように遠ざかる留衣との距離感を思い出してしまう。

今、大学院に入った留衣は長々会いにきてくれない。

忙しくてと言うよりは避けられているような気がする。

「……最上司」

「遺伝子工学の若き教授の名前を呟いてどうした?」

小さな呟きはダイニングキッチンで食器を洗っている留佳さんにも聞こえたようで不思議に首を傾げている。

「留衣が尊敬する教授ですよ」

「……ああ、デザインチャイルドか」

くだらないと、冷たく呟いてから彼はキッチンから出てきて私の隣に座る。

「産まれてくる子供を産まれてくる前に知るのは面白くない上に個性が失われる」

「……私には難しいですけど、」

留衣が研究する“デザインチャイルド”には共感できない。

それは留佳さんもで、留衣が“デザインチャイルド”についての卒論を書いているのに気付きその道に進むことを反対したらしい。

そして今日(こんにち)までいまだ仲直りをしていない。

その延長なのか私ともめっきり会わなくなった。

ずっと傍に居ただけに急に居なくなると少し寂しい……。

そっと息を吐き出すと頭に何が置かれる。

留佳さんの手だ。

「あまりストレスは溜めるな」

「……ちょっと無理です」

「……留衣が大事か?」

どこか不機嫌な声で拗ねたようにたずねてくる。

つい最近までは知らなかったけどこれは彼の小さな嫉妬らしい。

うりうりと頭を撫でる。

少し冷たいだけど暖かい手に私は心が暖まりゆっくりと彼にもたれる。

「物心つく前から傍に居たのに急に離れたら寂しくは……?」

「特には

俺よりも音葉にべったりだったからな」

素っ気なく言いつつも私の頭を優しく撫でている。

どうやら癒しを求めているらしい。

言い方は素っ気なくても妹が離れることは少しは寂しいのかな?

私はくすりと笑いつつお腹に宿る小さな命の存在を確かに感じていた。




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