3「珍しいでしょ?」
変な話、私と留衣は小中とクラスがずっと一緒で高校でもまた一緒という腐れ縁。
正直言えば何か裏から変な権力があってそうで怖い。
ないと思うけど。
「あの馬鹿兄貴め……」
「まだ朝のことを?」
「当然!」
そう言ってお箸で私を指す。
「いつもいつも私を雑に扱って!
妹が可愛くないのか!」
「うん、どうでもいいからお箸で人を指さない
行儀が悪い」
「はーい、音葉ママ」
キモいと言いそうになった口を玉子焼きでふさいで乗り切る。
ほんの少しだけ入れた鮭の風味が口のなかを漂う。
一方の留衣はどこかで買ったのであろうサンドイッチを口一杯に含んでいる。
私がやったら汚いであろうことも美少女である留衣がすると可愛らしく見えてしまう。
……世の中は不公平だ。
「あほあひぃきひゃ!」
「口に物を含んで話さない」
「う」
私に注意された留衣は少しだけ首を縮こめてから口に入っている食べ物を飲み込む。
……しっかり噛ませることを覚えささないといけないかな?
「あの兄貴が一緒に学校に行くとか言い出さなかったらこうならなかったのよね」
「あれ?留佳先輩が言ったの?」
「そう、珍しいでしょ?」
留衣の言葉に私は失礼ながらも頷く。
私の知っている西木留佳は騒がしいのが苦手で人とはあまり関わりたがらない人。
幼馴染みの私でさえあまり話さないのない人だから他の人なんて話したことのない人もいるんじゃないかな?
そのくらい無口。
「昔からそうだけど兄さんが考えていることなんて分からないわ~」
そう言って最後のサンドイッチをポイと口に含み、のどにつめた。
やっぱり食べ方はしっかりと躾ないと!
留衣は生徒会に入っており放課後はいつも生徒会の集まりでいないため帰宅部の私はさっさと校舎をでる。
誰かが私を呼び止める声がしたけど今はそれどころじゃない。
少し駆け足ぎみで通学路とは反対側を歩いていく。
しばらく歩けば活気溢れる商店街が見えてくる。
色々な店があるなかで私はとある一件の店の文字を見た瞬間走り出す。
「おじさん!」
「おう!音葉ちゃんじゃねーか!」
元気で明るく威勢のいいおじさんがニヤリと口を歪めながら立っている。
私は何の迷いもなくずっと思っていた言葉を言う。
「牛肉200g頂戴!!」
「おうよ!
特売日になると買い込むね!!!」
そう今日は商店街の特売日。
月に一度あるこの日に私はさまざまなものを買い込む。
別に貧乏ってわけじゃないけど安いものは安く買いたいでしょ?
まあ、一つミスしたことを言えば買いすぎて帰れなくなっていることかな?
「さて、どうやって帰ろっかな?
さすがに5袋分は買いすぎたかな……」
てか、我ながら何で気づかなかったのかな?
びっくりするぐらいマヌケすぎる。
いくら何でも買いすぎだよね……。
一歩も動けない私はとりあえず父親を呼ぼうと思うけど生憎この時代は携帯電話は高価で買えない。
「はぁ、どうしよっかな……」
「何してる」
「!」
不意に後ろから声が聞こえ振り返ると帰りなのか少し着崩れた制服を着ている留佳先輩が立っている。
いつも通り無表情で。
「留佳先輩」
「……」
留佳先輩はチラリと私の足元を見てから呆れたようにため息をつく。
「馬鹿か、買いすぎだ」
「う、面目もないです……」
本当に面目もない。
どう考えても私一人ではもってかえるのは不可能。
ホント、どうやって帰ろっかな……、公衆電話で呼ぶしかないな。
そこまで考えていると不意に目の前から荷物が3つ消える。
驚きながら荷物の先を見ると留佳先輩が持っていて背中を向けている。
「行くぞ」
「え、あ、はい!!」
スタスタと歩いていく留佳先輩を追いかけるように私は駈け足になりながら歩く。
あまりにも意外な展開に私の頭は働いていなかった。
後々、留衣に言うとニヤニヤとしながら留佳先輩に何やらいい殴られていた。




