29「お祖母ちゃんに叱られますので」
誘拐されてから5日は経った今日。
足の手錠はつけられたままだけど手首はとられているのでだいぶ自由になった……今だけ。
今私の周りには何人ものの女性(たぶん女中さん)により豪華な着物を着付けされている。
はっきり言って……重いし暑いし苦しい!
「(お、お腹の紐、わざときつく締めていない!?
うごっ!なんか入ったけど!?)」
痛すぎる……。
こんな服を八千代さまは着ていたのかと思うと少しだけ八千代さまを尊敬してしまう。
とてもではないけど表情に出せないわけがない。
さっきから私の眉間にシワが寄っているからチラチラ私の顔を見ている女性たちは気づいているはず。
なのにさらりと無視して着々と進めていく。
この間、無言無表情。
怖い怖すぎる!!
「(いつ家に帰れるの?
てか、何で着付けされてるの??)」
女性たちの鉄仮面が怖い上に何故着物を着付けされているかわからない、されるがままの状況に冷や汗が流れる。
「本当、あの雌狐にそっくりすぎて気持ち悪いわ」
着付けされた私を一瞥して言う八千代さまの言葉は意外にもそんなに傷つかなかった。
というより着付けのせいで神経が削がれているのもあったかもしれない。
特に反論することなく座布団の上に正座する。
何も言わない私に八千代さまの眉はピクリと動くだけで何も言わない。
その隣に座る真夏さんはにこにことしている。
「よくお似合いですよ
その着物は貴女のお祖母さんが着られたものです」
「……はあ、何でもいいですけど早く帰して貰えません?
お祖母ちゃんに叱られますので」
大真面目に言うと真夏さんは口を開けたまま固まる。
あれ?どこか固まる要素あったかな?
「……帰りたい要素って叱られるかの問題ですか」
「お祖母ちゃん、怒ったら怖いですから」
そう、怖い。
今の私の帰りたいの原動力の半分はお祖母ちゃんを怒らしたくないというもの。
無表情なお祖父ちゃんはむしろ怒らず軽く拳骨をして終わる。
すると真夏さんは無表情になり何も感情の浮かぶことのない瞳を向ける。
「……そうですか
帰りたいのは分かりましたがその願いは叶うことはありませんよ」
背筋が凍るような無機質な笑み。
「貴女は私の許嫁です
今後、許可なくこの屋敷から出ることは許されません」
「……誰が決めたの?」
「?勿論、曾祖母さまですよ
そしてこれは如月家の決まりです」
「……」
なにかがキレる音がした。
普段は温厚だの優しいだの言われている私だけどかつて一度留衣の無茶苦茶な行動に我慢出来ず怒ったことがある。
その時の留衣の表情は真っ青で叱り終えると土下座までしてくれた。
以後、留衣は私を怒らすことはなくそれなりに節度守って接してくれる。
大体、私がキレる前にお父さん達が私のガス抜きに付き合ってくれたからキレなかっただけであって今はガス抜きの相手もいない。
お母さんいわく、「母さん(桜お祖母ちゃん)に似てきた?」とのこと。
だって私がキレる時は……
「……ふざけないで下さいね?」
お祖母ちゃんと同じように満面の笑みでキレる。
こうなったら頭が麻痺しているのか真夏さんの無機質な笑みさえも怖くない。
勿論、八千代さまのお小言だってね。




