24「何を読んでいるのですか?」
暑さが増す7月、如月真夏さんがやってきて3ヶ月が経った。
彼はごく自然にクラスに溶け込みクラスの一員となっている。
誰もが彼を認めているなか留衣は酷く機嫌が悪い。
「……嘘くさい笑顔ね」
「留衣!」
「だって本当じゃない」
如月さんの周りにいるクラスメイトを客観的に見ている私達はその輪よりも少し離れた場所に座っている。
口々に彼に話しかけその問いに聖徳太子如くににこやかに答えていく如月さん。
……奇妙な光景ね。
「あいつ、音葉に対してはかなり睨みを効かせているじゃない!
兄さんだってあいつには細心の注意を払っているしね!」
「……留衣も留佳先輩も大袈裟すぎ」
本当に大袈裟すぎだ。
私が学校で泣いて以来留佳先輩は過保護なまでに私のそばにいて金曜日から月曜日まではお泊まりというサイクルを繰り返している。
最近では私が出掛けようとするとどんな用事も後回しにして付き添ってくれるし、夜な夜なお父さんと何か話し合っているみたい。
留衣も留衣で、今までも結構傍に居たのに最近では生徒会の仕事を朝と昼に終わらせて放課後は傍にいる。
……うん、過保護と言うよりかはストーカーじみているのは私の気のせい?
少し西木兄妹の行動に頭が痛くなった私は気分を変えるために私の憩いの場所たる図書室に向かうべく立ち上がる。
すると生徒会の仕事をしていた留衣は慌てて仕事を放棄して私についてこようとする。
けど、その前に一言。
「仕事を放棄する留衣は嫌いよ」
「…………………………………………………………………………………………………………………………」
一言に効いたのか留衣は固まりそのまま重力に逆らうことなく椅子に座る。
若干留衣の身体が消えかけているように見えるのは気のせいだと思い留衣を置いて図書室へ向かう。
「……」
その様子を一対の視線が見ていることにきづくことなく教室を後にする。
本校の図書室はこじんまりとした校舎にしては意外にも広く冊数も多い。
専門書が多いのが特徴で留衣はよくここで難しい本を読み漁っている。
何度か覗き見してみたけど英語でかかれているせいか全く分からないけど表紙が理系なのは分かった。
かたや私は小難しい本は苦手なので基本的に料理や裁縫関係の本を読んでいる。
今だってそれ関係の本を取り近くにある椅子に腰かけて読んでる。
昼休みに図書室にいるのは司書さんだけで生徒は私以外誰もいない。
だから油断していたのかもしれない。
「何を読んでるのですか?」
「!!?」
彼……如月真夏さんがここには来ないと。
反射的に本を抱き抱えて椅子から立ち上がる。
そのときに大きい音が響いたけど私はそんな音さえも耳に入らなかった。
にこやかに微笑む如月さんだけどその瞳は凄く薄暗くどんよりとしている。
「……クラスメイトはいいのですか?」
「?
ああ、あの五月蝿い連中ですか?」
にこりと毒気のない笑顔に私は何を言われたのか分からなかった。
多分、その時の私は急な言葉に唖然としていたし隙があったのかもしれない。
「……」
「きゃっ!」
いとも簡単に背中から机に押さえ込まれた。
両羽でを後ろで組まされ上半身は机に押さえられている状態で全くもって身動きがとれない。
用心深いのか口をハンカチでおさえられている。
「すみませんがようやく貴女が独りになったのです
このチャンス逃すわけにはいきませんよ」
「ふぐっ!?」
横を見ると如月さんが悠然と立っており視線をギリギリまで後ろにむけると違う誰かが私を押さえ込んでいる。
まさか後ろにいるなんて……!
「ここ3ヶ月、ずっと西木留佳が居ましたし彼は気配に敏感らしい
さらには西木留衣も僕のことを非常に警戒している」
そう言って彼は端正な顔を私の前に近づける。
「柊音葉
貴女は僕を怖がっていたが警戒していなかった」
「……」
「貴女が感じた通り僕は貴女が憎くてたまりませんし同時に嫉妬します
“同じ一族”の血を受け継ぐのに貴女は人に恵まれすぎた」
「……?」
“同じ一族”と言われ私は思わず首を傾げる心情を味わう。
確かに私のお父さんの旧姓は“如月”だけどそれほど珍しい名字ではないはず。
偶然、同じ名字なだけ。
不思議な表情を浮かべていることに気づいたのか如月さんは歪に笑う。
「その様子では何も知らないようですね」
「……(知りませんけど、何か?)」
渾身の力で目で訴えた。
それが伝わったのかは知らない。
だけど彼は、
「僕と貴女は俗に言う“従兄弟”ですよ
僕の父と貴女の父がね」
「!?」
「詳しい話は“邸”で言いますね」
笑顔で言ってから私に手刀を当てた。
一瞬の痛みのあと私は意識を手放してしまう。
「さあ、帰りましょうか?
“如月家”へね、婚約者殿」
意識を喪う寸前、何故か心配そうな留佳先輩が出てきた。




