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平均な兄、天才な妹  作者: 夜桜
如月編
23/40

23「そう、反する」




今でも思い出せる。

祖母(ばあ)さまの無機質な瞳。

お母様の哀しげな微笑み。

兄の高圧的な視線。

親族の諦めめいた視線。

そして……


「私が傍にいてあげる!

だから笑ったら?」


暖かく男気溢れる早苗さんの笑顔を。






「……真也さん?」

留佳くんが少し心配そうに声をかけてくる。

どうやら思考の海に入っていたみたい。

僕はへらりと笑ってからいつの間にかたどり着いていた自室に留佳くんと共に入る。

時間は深夜0時。

“如月家”を知りたがる留佳くんの希望を汲んで音葉が寝ている時間を考えた結果我が家でお泊まりとなった。

明日が休みでよかったよ。

部屋に入ったら留佳くんに座布団に座るように勧めてから机を挟んだ向かい側の座布団に僕は座る。

「さて、どこから話すべきかな?」

「如月真夏について」

少しドスの聞いた声音で言われ僕は冷静な彼らしくない彼に驚く。

余程如月真夏くんが気にくわないらしい。

よく見ると無表情にみえて瞳には怒りが宿っている。

少し意外なので苦笑してから話す。

「真夏くんは長兄の息子で音葉の従兄に当たる子だよ

そして祖母さまに可愛がられている“唯一”の存在」

「“唯一”?」

さすがと言うべきか留佳くんはいいところに食らいついてくれる。

いいところに食らいついてくれるけどまだ話すのは早すぎる。

「そう“唯一”

だけど先に如月家について教えるよ」

「手順……ですか

わかりました」

そう言って留佳くんは黙り僕の言葉に耳を傾ける。



華道の名門“如月家”は今なおも多くのお弟子さんがいる。

この業界では最高峰の権威を誇り、かつて……いや、今もお金持ちのお嬢様方は通っている。

血筋も高貴な者で、噂では天皇家の皇女が嫁入りしたとも言われているし、

時の権力者の娘なども嫁入りしたと言われている。

そのぐらい歴史は古い。

歴史ある家だけどその分薄暗いことや“如月家”内での派閥争いも多々ある。

ある意味では真夏くんはその犠牲者かもしれない。

そして、音葉も。

「……古い家だから色々と家族関係や掟なども複雑なんだ

例えば“当主及び次期当主の妻もしくは夫は直系の次に血が濃いもの”とかね」

「……めんどくさそうですね」

心底めんどくさそうに眉を寄せる留佳くん。

うん、物凄く同意したい。

それのせいで僕も危うく早苗さんと結婚できないことだってあった。

まあ、そんなことは今関係ない。

掟よりも複雑なのは家族関係だ。

「家族関係の方が複雑だよ

さっき真夏くんと音葉は従兄だって言ったけど……

実際は“普通の従兄よりも血の繋がりは薄い”よ」

「!?」

「真夏くんのお父さんと僕は異母兄弟で

僕のお母様は普通の人だ」

「え?

それはさっきの掟に……」

「そう、反する」

断言する僕の言葉に留佳くんは困惑しているのか少し視線を下に向けている。

だけどそれが事実。

さらに言えばそれのせいで僕は一族で冷遇されていた。

「……話を少し変えるよ

次期当主の妻もしくは夫は基本的に当主が選び宛がうのが暗黙の了解なんだ

血筋も大事だけど何人も近い血筋がいたらそうなる

僕のお父様の前の当主は祖母さまで彼女はお父様に自身の可愛がっている分家の女性を宛がった

その女性……前妻との間に産まれたのが真夏くんのお父さんだ」

少し瞼を閉じれば思い出す。

異母兄の僕を見下し憎しみを籠めた視線を。

あの家にいるときその視線は恐ろしく感じた。

だけど彼の心情的には仕方がないかもしれない。

だって……

「だけどお父様は異母兄が産まれると前妻に見向きもしなくなり……気に入った一般人女性と浮気をした






そして、産まれたのが僕だよ」



僕は前妻が“生きていた時に産まれた”子供だから。

留佳くんの息を飲む音が聞こえてくる。

驚いているのか目を見開いており、珍しい彼の様子に僕は思わず苦笑してしまう。

と、同時に安心した。

彼もまだ子供なのだと。

「最初にも言ったけど古い家だからそう言うのも多々あったよ

だけど祖母さまは潔癖な方でそう言うのが許せなかったんだろうね

お母様と僕を見るたびに睨まれたよ

ちなみに前妻は僕の存在をしって心労のあまり倒れたらしい」

「それは……!」

何かを言おうとする留佳くんだけど僕はやんわりと止める。

仕方がない、これは事実で赦されないことだ。

だけど一つ弁解させてもらえるとしたらお母様はお父様を何とも想っていなかった。

だからこそあの家で過ごすことに苦痛を感じ徐々に弱っていく身体に気づいた。

元々母性が強いお母様は幼い病弱な僕を1人残すことを心配し知り合いの医師に僕を頼んだ。

それが英輝さんと桜さん。

そして二つ上のお姉さん、早苗さんだった。

出来たらノロケ(?)を少し話したい。

だけどそれは今留佳くんの知りたいことではないので僕の心のなかにおさめる。

「……祖母さまの“唯一”って言うのは真夏くんが前妻の血を引く子供

祖母さまが可愛がった女性の血を引く子供で、最も“如月家”の血が濃いものだからだよ」

「だったらおかしいですよね?

祖母さま……音葉から見たら曾祖母さんに愛されているなら音葉を憎むなんて……」

少し困惑したように言う留佳くん。

確かに彼の言う通り“如月家”の主とも言える祖母さまから愛される真夏くんが祖母さまから嫌われている僕の愛娘を憎むなんておかしい。

優越感に浸るなら兎も角ね。

でも、たた一つの例外がある。

「これは早苗さんから聞いた話

真夏くんは確かに祖母さまに愛されているけど両親から愛されたこともなくさらに言えば僕のお父様、つまり音葉の祖父に愛されたことはないらしいよ」

「は?」

「異母兄夫妻は祖母さまの言い付け通りの結婚で別に互いをどうとも想っていなかったし、お父様は前妻を愛していなかったから前妻の血を引く真夏くんをなんともおもわなかったらしい……早苗さん曰くね」

「……それが音葉を憎む理由?」

聞かれたので頷けば留佳くんは口を開けたまま固まる。

気持ちは分からないこともないけど真夏くんにとって周りからの愛情を受けて育った音葉は嫉妬を通り越して憎しみまで抱かせる存在。

「……真也さん」

「ん?」

「音葉は如月真夏の従妹何ですよね?」

「……そうだね」

「それって……!




次期当主に最も近い血筋……ですよね?」



少し震えた声音に僕は安心と恐怖を抱いた。



彼が子供で音葉を大事に想っている安心と

音葉が“如月家”に奪われしまう恐怖に。



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