22「……よく見えたね」
こちらの用事が終わり二年の教室をあけると待っているはずの音葉がおらず思わず眉を寄せる。
「音葉」
「っ!」
呼べば息を飲む音が微かに聞こえ教卓の前に移動する。
まるで隠れるように座る音葉は今にも泣き出しそうだ。
恐怖からか青ざめ力なくうつむく彼女を見たとき俺は力一杯彼女を抱き締める。
震え怯えている音葉を見ると自分の無力さを感じてしまう。
「音葉」
「……!」
「大丈夫、俺がいる」
そう言って彼女の頭を撫でると早苗さんのお墓の前以外では初めて涙を流す。
よほど怖かったのか音葉は俺にしがみつきなき続ける。
「なん……で?
あんな視線を……むけられる……の……?」
「……如月真夏か?」
そう聞けば震えながらも首を縦にふる。
「わたし、なにもして……ないのに……!」
「……そうだな」
まさしく悲痛な心からの訴えに如月真夏がどれ程音葉を傷つけているかわかり同い年でないことを恨む。
同い年であれば音葉を守れるというのに。
「……(如月真夏、お前は一体何を欲している?
音葉を何故傷つける?)」
どれだけ考えてもわかることのない如月真夏の考えに俺は苛立ちを隠すので必死。
今だ俺の腕のなかにいる音葉は涙を拭いいつものように微笑む。
「すみません……いきなり泣いて……」
「気にするな」
そう言って腕を緩めると急に腕のなかの暖かさがなくなり俺は眉を潜める。
見ると音葉は悲しげな表情を浮かべている。
どこか物足りなさを感じながらもなんとか表情を押し殺し音葉の頭を撫でる。
すると悲しげな表情から一変気持ちよさげに目を瞑っている。
俺を信じきるその表情は嬉しくもあり悲しくもある。
「……兄か……」
「へ?」
「……帰るぞ」
前言を突っ込まれないうちに俺は音葉の鞄をとり彼女に声をかける。
音葉を送ると先に帰ってきていた真也さんが慌てて駆け寄ってくる。
「音葉!どうしたんだい、その真っ赤な目は!?」
「……よく見えたね」
音葉の呆れた声音に俺も同意してしまう。
心配かけたくないという音葉の意思を汲み取りわざわざ保健室で氷を借り、冷やしマシになったので帰ってきたというのにだ。
距離およそ5mだというのに真也さんは見破ってしまう。
「何かあったの?」
「別に平気
お祖母ちゃんの手伝いをしてくるね!」
「え?音葉!?」
真也さんの隣を潜り抜けて音葉は家へと入っていく。
その足取りは軽かったので少し安心し、息をつく。
真也さんはと言うと娘にスルーされたダメージなのか氷像のように固まっている。
「音葉が……反抗期!?」
「違うと思いますが」
「じゃあ何!?
あの子が僕に隠し事なんてしたことないよ!?」
知るか!とツッコみたいのを必死に堪えるために無表情に徹する。
忘れていたが真也さんはかなりの親バカだ。
聞けば手先が器用なのを理由に音葉の鞄やお弁当袋はたまた枕カバーなどを全て手作りにしているらしい。
酷いときなんかは浴衣まで作ったとか……。
「音葉が反抗期……僕はどうすればいいの!?早苗さーん!!」
「近所迷惑ですよ」
「そんなのはどうでもいいよ!」
よくないだろ!と思いながらも無表情に徹する。
……なんというか真也さんという存在か掴めなくなっていく。
少しこの現実を見たくなかったので遠くを見ていると、
「真夏くんかな?」
音葉の様子が可笑しい原因を突きつけてくれる。
いつものように無表情に徹するが内心は少しだけ驚いている。
表には出ていないはずなのに真也さんは俺を見てから「やっぱり」と呟いて苦笑する。
「如月の次期当主たる彼なら音葉を欲し、恨みや憎しみを懐くよね」
「……理由は分かってるのですか?」
「まあね」
そう言ってから真也さんは家の扉の方へ視線を向ける。
見ると音葉が躊躇いがちに声をかけてくれる。
「お父さん、留佳先輩ご飯だよ?」
「今行くよ」
“この話は後で”そう言ってから真也さんは先に音葉の元に向かい一言かけてから家に入っていく。
真也さんに何かを言われた音葉はわざわざこちらに来てから「ご飯ですよ」と笑顔で言ってくれる。
その様子に少しだけ幸せを感じてから音葉を連れてお邪魔させてもらうことにした。
楽しい夕食。
音葉の笑顔に癒されながらも頭の片隅では如月真夏を警戒してしまう。




