2「まぁ、慣れたけどね」
私と西木兄妹の関係を一言で言えば“幼馴染み”。
かといって、西木留佳と親しかったかと言われれば“いいえ”。
彼とまともに話したことなど高校生になるまでほとんど無かったし、幼少期なんて彼の妹 西木留衣としか遊ばなかった。
そもそも私の記憶で彼のことを最初に思い出せるのは小学校高学年。
留衣のことは幼稚園からのことを思い出せるのにね。
決して彼が嫌いだったわけじゃない。
ただ彼と接点がなかっただけ。
高校の制服と言えばこの頃はまだ平成に入ったばかりでブレザーではなくセーラー服のところが多い。
私の通う公立高校もセーラー服と学ランだった。
入学当初は気恥ずかしかったけどさすがに10月にもなったら慣れる。
少し肌寒くなった通学路を私はゆっくりと歩く。
不意に秋風が吹く。
「寒い……」
前言撤回、寒すぎる。
肌寒いを通り過ごしている!
いきなり冬突入!?
ああ、マフラーしてくるべきだった……。
さすがにカーディガンだけは寒い。
これを後20分我慢しないといけないと思うと気が遠くなりそう。
「おっはよ!音葉!」
そう言う声と同時に私の背中が少し重くなり同時に暖かくなる。
暖かくなるのはすごく嬉しいけどそれを上回る重さが背中にかかっておりかなり苦しい。
「お、重い」
「挨拶もなしにいきなり乙女の心を折るの!!?」
煩い、誰が乙女だ!と、ツッコみたいけど背中にのし掛かる圧力のせいで肺が圧迫していて呼吸がしにくい。
頼むからどいてよ!
そんな願いが届いたのか背中から「うぐっ!」と乙女らしからぬ声と共に重みが消え去る。
ようやく胸一杯に空気を吸ってから振り返ると漆黒の青年と夜色の少女がいた。
……最も正確に言えば無表情の漆黒の青年が夜色の少女の襟首を引っ張っており、今にも死にそうな蒼白い表情をした夜色の少女がいる。
「何している」
「そ、それより!離し……て!」
「ほい」
ドスン
無造作に漆黒の青年が手を離すと夜色の少女は受け身もとれずに地面にお尻をぶつけ鈍い音があたりに響く。
「痛い!!
いきなり離さないでよ!!」
「離せと言ったのはお前だ」
「だからっていきなり離さないで!!」
「おはよう、音葉」
「お、おはようございます、留佳先輩」
「スルーするな!馬鹿兄貴!!」
若干ギャグになってしまっている夜色の少女の絶叫に私は苦笑するが漆黒の青年は無表情。
いつものことだから慣れているのかもしれない。
だけどね?
私は気まずいのよ?
主に周りからの視線が怖くて……。
二人とも人目惹く容姿だから結構注目なんだよね。
夜色の少女こと西木留衣は俗に言う美少女。
別に高嶺の華ではなく普通に話しかけやすい女の子で約15年の私の幼馴染み兼親友。
成績も優秀で文武両道、明るくほがらかで誰からも好かれる少女。
漆黒の青年こと西木留佳は平均より少し上の容姿をしている私の幼馴染みで留衣の年子の兄。
高校生とは思えないぐらい冷静で物静か。
それが女子には人気らしく告白も結構されているとか。
成績は平均より少し上だが国語は何故か満点。
そんな二人と幼馴染みなのが私こと柊音葉。
技術家庭科以外は平均より少し低く容姿も普通。
だからなのか西木兄妹と一緒にいるとよく睨まれる、
まぁ、慣れたけどね。
だけどため息は許してほしい。