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平均な兄、天才な妹  作者: 夜桜
如月編
19/40

19「駄目じゃない」





音葉の口から“如月”の名前が出てから数週間が経った6月半ばの土曜日の今日。

俺は音葉と共に早苗さんのお墓に来ていた。

先月の月命日に来れなかったのでちょうど音葉と予定があい二人でやってきた。



お墓の掃除を終えるとお花をさし音葉はしゃがみこんでお墓に向かって手を合わせ目を閉じている。

その斜め後ろで俺は立ってお墓を見ている。

「……(早苗さん、“如月”がやって来ました

目的は分かりませんが音葉に接触してきましたよ)」

心の中で早苗さんに語りかければ辺りに風が吹く。

もう夏だと言うのに身震いのする寒さだ。

まるでこの先の未来を予想しているようだ。

「……(何故貴方達が“如月”を恐れるかはわかりません

ですが、音葉は俺が守ります)」

心の中で誓いを立ててから音葉をちらりと見ると静かにお墓を見つめ……泣いている。

嗚咽を漏らすのではなくただ目から水が零れているだけだ。

拭うことなく静かにお墓を見つめる彼女の姿は痛々しいの一言につきる。

不意に彼女はこちらを振り返ると視線があう。

「……駄目ですね 」

「……」

「どうしてもここじゃ泣いてしまいます」

そう言って音葉は笑う。

そう言って音葉は泣く。

真也さんでも留衣でもなく俺の前だけで音葉は泣き笑う。

声をかけることはなく俺は頬を弛めるだけ。

そうすると音葉は驚いたように目を見開く。

無表情といわれる俺の唯一の笑顔。

「駄目じゃない」

「……え?」

「駄目じゃない

母親に甘えるのは普通だ」

「……」

「だから泣いているのは変ではないし駄目ではない」

「……はい」

小さく微笑んでから音葉はお墓に視線を向ける。

先ほどまでの痛々しさなんてなくいつもの明るく暖かい彼女に戻っていた。

そんな彼女を見ていると後ろから誰かがやって来る気配がする。

ここは柊家代々の墓場だから普通の人はくることはない。

今日は真也さんは仕事で我が家も皆忙しいから来ることはない。

思わず振り向くと黒髪と同色の瞳を持つ同年代の男子が立っていた。

美人などは留衣で嫌程慣れているがこの男子も人目を惹く容姿だが何故か近寄りがたく感じる。

男子は儚げに微笑むがこちらは背筋が何故か凍る。

「こちらは柊早苗さんのお墓ですか?」

「……そうだが

お前誰だ」

“名前を聞く前に自分から名乗る”という常識を思わず忘れて問いかける。

するとようやく第三者の登場に気づいた音葉がこちらを見てきょとんとする。

「如月さん……?」

「!?」

「お久しぶりです、音葉さん」

心底不思議そうに相手の名前を言う音葉と音葉に近づこうとする男子、如月。

驚きながらも彼らを近付かせないように間に立つと如月はこちらを少し睨み付ける。

まるで蛇のような薄気味悪い睨み方だったがひくことなく音葉を守るように立つ。

すると先ほどの睨みが嘘のように爽やかに微笑む。

「貴方は初めましてですね

僕は如月真夏です」

「西木留佳だ」

「西木さんのお兄さんですね

今後とも宜しくお願いします」

そう言って一礼をしてから俺の後ろにいるであろう音葉に微笑みかける。

その行動に苛つくものの背後から怯えたような音葉の気配を感じ思わずふりかえる。

「っ!音葉!?」

可哀想なぐらい青ざめた彼女が立っている。

留衣が見たら如月を殴りそうだと頭の片隅で考えながらも音葉の傍に寄り添うと震えが伝わってくる。

何故ここまで怖がっているのか分からないが原因は目の前の男だろう。

「大丈夫ですか?音葉さん」

「あ……」

「避ければ我が家の車でお送りしますが……」

「断る

即刻この場から去れ」

「……随分嫌われたようだ」

そう言って如月は薄気味悪い笑みを残したままその場から去る。







「どうでした?真夏さん」

「残念ながら嫌われたようです」

「そう」

「申し訳ございません

僕の不注意です」

「構いませんよ

……ですが、あの娘は手にいれなさい

あれは唯一の“女児”なのですからね」

「勿論ですよ、曾祖母(ひいおばあ)さま」





如月真夏との初めての邂逅は今でも思い出せる。

だけどまだ俺は知らなかった。

如月家が音葉を欲する理由を。

早苗さんが如月家を恐れる原因を。


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