17『あの子を守ってね』
今でも思い出せる。
早苗さんとの最後の会話。
『あの子人に頼ることを知らないの
まあ、それは私や真也くんが音葉に甘えていたせいなんだけどね?』
『はあ』
『でもね?
音葉って昔から留佳くんには甘えていたのよ』
『え……?』
『確かにあまり関わりはなかったけどね音葉は留佳くんに甘えていたの
母親の私が言うのだから間違いない!』
『……はい』
『だから、
あの子を守ってね
“如月家”から』
どこか弱々しい早苗さんの声に俺は躊躇いもなく頷いた。
元より音葉を守るのにはなんの言葉も必要ない。
ただ俺が守りたいだけだ。
下校中、今日は留衣が生徒会だからいない。
その為音葉と二人っきりだ。
早苗さんが亡くなった次の日から用事がない限り彼女の送り迎えは俺がしている。
そのせいか益々留衣に睨まれるようになったがいつもどおり無表情でスルー。
いちいち相手になんかしてられない。
留衣よりも隣で今日のことを話す音葉の方が大事だ。
先程からクルクルと変わる表情は見ていて楽しいもので俺の頬がだらしなく歪みそう。
例え話の内容が留衣のことが中心でもだ。
「留衣ってばしーちゃんに迷惑かけて……」
「あの馬鹿は昔からそう言うことをする
今さら考えても仕方がない」
「そうですよね」
俺の淡々とした返しに音葉は苦笑する。
それでもどこか楽しげに話す彼女を見てようやく早苗さんの死から吹っ切れたのではないかと思う。
葬儀の間、涙一つも見せずにどこか気の抜けた表情を浮かべる彼女は誰が見ても危うい存在。
留衣は始終心配していたが音葉は俺以外の前では泣かなかった。
いまだって俺以外の前では笑っている。
「……(信頼されているのか?
それともまだ兄止まりなのか?)」
葛藤する俺に音葉気づくことなく無邪気に笑い続けている。
音葉を送り届けると彼女の祖父母に誘われ夕食をご馳走になった。
料理好きの音葉は我が家に泊まりに来たときも母さんと共にご飯を作ってくれるので彼女の料理の腕前はよく知っている。
音葉の祖母 桜さんも料理が上手でどこか音葉と同じ料理に感じられる。
真也さんが仕事から帰ってくると和やかな食事が始まる。
少し前の病弱なのが嘘のように真也さんは明るく元気に働いているらしい。
聞けば「僕が死んでも早苗さんが居るから音葉は一人にならない
けど今僕が死んでしまったら音葉は一人になってしまうし早苗さんに怒られちゃうや」と苦笑しながらもどこか優しげな笑みをうかべている。
そんな真也さんに学校での出来事を次々話すのは音葉だ。
満面の笑みで真也さんに話しており、真也さんもそんな音葉に笑いかけている。
そんな二人をにこやかに見守るのは英輝さんと桜さんと俺の三人。
だけど和やかな空気も音葉のとある話で凍る。
「そう言えば転校生が来たよ」
「転校生?
男の子かな?」
「うん
何でも“華道の名門”の次期当主様だって」
「っ!」
“華道の名門”と言う言葉で俺は持っていた箸を落としそうになるがこらえる。
見ると真也さんの顔も少し強張っており英輝さんも眉間にシワを寄せている。
桜さんだって顔を真っ青にしており今にも倒れそうだ。
唯一知らない音葉だが周りの空気を過敏に感じとり怪訝な表情をする。
「……音ちゃん、名前はなんといった?」
ようやく声を発したのは年の功なのか英輝さんだ。
だけど声音は固く音葉は益々怪訝な表情をしていく。
しかし小さく名前を言う。
「確か……“如月”
如月真夏だったよ」
今でも早苗さんの最後の会話を覚えている。
彼女が最後に言った言葉を。
『あの子を守ってね
“如月家”から』
何があっても音葉を守らないといけない。
そう、改めて思った。




