表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平均な兄、天才な妹  作者: 夜桜
日常編
15/40

15「……ここにいる」




泣きたいけど泣けなかった。

そのぐらいお母さんの死は現実離れしていた。





沙耶さん連れられやって来たのは病院の遺体保管室。

部屋の前には椅子がありお父さんが項垂れていたが私たちの足音に気付き顔を上げる。

ただでさえ病人なのによけい蒼白くなっており見ている私が心配だった。

お父さんは微かに微笑んでから立ち上がり沙耶さんに頭を下げる。

「すみません、音葉を……」

「いいから、早く早苗の所に……!」

最後はほとんど涙声で言うと押し黙ってしまい何も言わない。

お父さんは小さく頷いてから私を引き連れて部屋に入る。

背中から沙耶さんの泣き声が聞こえてきた。



部屋は薄暗く中央には手術用のベッドがありその上にの白い布をかけられており人の形がしてある。

お父さんが私の背中を押して顔の隣までやってくると顔にかかっている布をずらすと出てきたのは瞼を閉じたお母さん。

いつもの健康な赤みを帯びた頬は蒼白く、おもむろに触ってみるとひんやりしており暖かみがなく魂がないことが分かる。

「……轢き逃げだって

飛ばされて頭をコンクリートに打ち付けて……即死らしい」

「……」

「……轢き逃げの車の止まった跡がなくて事件性があるらしく警察が介入してくるからしばらく煩いかもしれないね」

「……そっか」

お父さんの話を訊いてお母さんの遺体を目の前にしても私には実感がなかった。

その為冷たいかもしれないけど一言しかでで来なかった。

でもお父さんは何も言わず私の隣に立つだけ。






そして実感もなく葬儀は進められたけど身内だけの小さなものだからすぐに終わった。

納骨が終わると今まで一切泣かなかったお父さんが静かに泣いていて私だけが泣けなかった。

そのことに葬儀にきていた留衣が心配そうにしていたけど私は安心させるために微笑むだけ。

今は一人で葬儀会場であるお祖父ちゃんの家の庭の岩に腰かけている。

まだ夜の6時だというのに辺りは暗く寒さが増してきた。

新年になってからまだ1カ月も経っていないのに葬儀したのは私のところぐらいかもしれないと心のなかで思う。

「……昨日の電話が最後なんだ」

お母さんとの思い出は驚くことに少ない。

私が産まれたときから一家の大黒柱として働いているお母さんは家に居ることが少なく家にいても急患が運ばれると呼び出される。

さらには娘よりも夫が大事と言ってのける人だ。

だけど不思議と嫌いじゃなかった。

むしろ大好きだった。



『音葉のご飯もいけるじゃない!』

お父さんが倒れてしまい初めて料理をしたとき。

少しばかり焦げたチャーハンをお母さんは笑顔で食べてくれた。



『泣きたかったら泣きなさい

貯めてたらパンクするわ!』

友達と喧嘩して泣くのを我慢していたとき。

お母さんがいつも私の涙を受け止めてくれた。



いつも側にいたお父さんよりもお母さんの方が私の不調を感じ取ってくれていた気がする。

いつも涙を受け止めてくれたお母さんはもういない。

だからなのか、いっさい泣けない。

「……お母さん」

「ここにいたのか」

「……」

門がある方から男性の声が聞こえてくる。

私はそちらを見ることなく真っ直ぐ建物の塀を見る。

声の主は留佳先輩はいつもは無機質な声音もどことなく心配が滲み出ているようで私の胸を突き刺す。

「真也さんが捜している

留衣だって心配している」

「……」

「戻るぞ」

そう言って真横まで彼がやって来る気配がするけどそこで立ち止まる。

ゆっくりとした動作で横を見ると彼はいつもどおり無表情で感情がいっさい読めない。

私はそのことに安心して自嘲気味に笑うと彼は怪訝な表情を浮かべる。

「私……これでも結構悲しいのですよ……」

「……」

「娘の前で『真也くんが一番!』とか平気で言う人で私はいつも呆れ返っていました

夫婦揃って娘を置いていって旅行なんてザラにあります」

「……」

「……でも口では“薄情”とか言ってても少し寂しいだけで不思議とお父さんが一番のお母さんが好きでした」

淡々と語る私を止めることなく留佳先輩は少し頷きながら聞いてくれる。

何も言わない彼の優しさに私は甘え次々と話していく。

お母さんが大好きだったこと。

お母さんが私を見ててくれたこと。

お母さんが家族を愛してしてくれたこと。

次々と話していく。

「本当に……大好きなお母さんですよ……」

「……」

「ああ、お母さんが居ないと私は泣けないみたいです」

最後に自嘲気味にそう言うと留佳先輩は大きく目を見開く。

そして次にはどこか怒ったように眉を寄せる。

何故留佳先輩がそんな表情をしているのかはわからないけど私は安心させるように微笑む。

すると頭に少し冷たい手が乗せられ、撫でられる。

留佳先輩だ。

彼は少し怒ったようなでも悲しげな表情をうかべている。

「泣けなくてもいい

だが、泣きたくなったら泣け」

「っ!?」

「……ここにいる」

そう言って顔を私から背けるが手は頭を撫でる。

どことなく優しい感触に安心し頬に少し暖かいものが流れるが拭わない。






哀しく辛い経験。

だけど本当の哀しさはこれからだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ