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平均な兄、天才な妹  作者: 夜桜
日常編
10/40

10「……欲するか」





文化祭が終わりいよいよ寒さが本格的になった12月後半。

私は珍しく両親と共に母の実家“柊家”にお邪魔することとなった。

冬休みに入り寒さが増してきたせいか元々身体の弱いお父さんはこの季節ずっとベッドから出れない状態で私もそうだがお母さんが心配のあまりお父さんから離れようとしない。

さすがに仕事の時間が迫るとお父さんがお母さんを外に出すけどその際お父さんから離れるなと厳命されている。

「体調が急変したら言ってね?」

「分かってる」

「絶対だからね!」

「いいから行きなさい!

この問い10分も続ける意味ないからね!?」

そう言ってお母さんを見送ってから一つため息をついてからお父さんの部屋を覗く。

この家で一番日当たりのいい部屋でお父さんはぐっすりと寝ていた。

お母さんの実家も小さな病院なのでもし体調が急変してもお母さんを呼ぶ前にお祖父ちゃんが治してしまいそうだ。

とりあえず起こすのも忍びないのでドアを静かに閉めてからお祖父ちゃんにお父さんの事を報告するためにお祖父ちゃんを訪ねる。




お父さんの寝ている家から少し離れたところにお祖父ちゃんの病院がありそこの医院長室にお祖父ちゃんはいる。

少し目立ち始めた白髪だけど全体的には黒髪で体型もしっかりしておりとてもではないがお祖父ちゃんには見えない。

だけどこの人こそ私の知る限り“唯一”のお祖父ちゃんでお母さんのお父さん柊英輝(ひいらぎひでき)さん。

「お祖父ちゃん」

「ん、音ちゃんか?」

「うん」

怖い厳つい外見からは想像できないくらい柔らかい声音で不器用に微笑むお祖父ちゃん。

私は一言断ってから部屋に入り近くにあった椅子に座る。

その向かえの席にお祖父ちゃんは座っていて私たちの間には古びた木の机がある。

「真也くんは?」

「ぐっすりと寝てるよ

昨日の喘息が嘘みたい」

「そうか」

短い素っ気ない言葉だがお祖父ちゃんは心底お父さんを心配しているのかホッと一息ついている。

一応お祖父ちゃんはお父さんの主治医でお父さんが5才のころから担当しているらしい。

今は小さな病院の医院長だけどかつては国内最高峰と言われた総合病院で外科医をしていたようだ。

お祖母さんと結婚してからすぐにこの小さな病院を経営し始めたらしいが理由はあまりよくは知らない。

「また何かあったら言いなさい」

「うん」

「真也くんは大事な義息子だから私に出来ることはする」

「ありがとう、お祖父ちゃん」

「ああ

音ちゃんも少し町を探索してきたらどうだ?

真也くんは(さくら)が見てくれている」

「そうなの?」

私が驚いたように言えばお祖父ちゃんは頷く。

柊桜(ひいらぎさくら)さんは私のお祖母ちゃんで長身のお祖父ちゃんとは違い小柄で可愛らしい人なのだ。

穏やかで優しく、まさしくお祖母ちゃんと言い感じの人だがお祖父ちゃんよりも5才年下らしい。

「じゃあ、ご好意甘えまして少し散策に行ってくるね」

「気を付けなさい」

「はい」

お祖父ちゃんに見送られ私は医院長室から出てその足で外に向かう。

行き先は特にはないから本当にブラブラと言う感じになりそうだ。




比較的都会に建っている我が家とは違い母の実家は田舎にあり断然寒い。

この間降った雪がまだ積もっている。

長靴を持ってきてよかったと真剣に思ってしまう。

サクサクと音をたてながらブラリブラリと歩く。

「田んぼに雪積もってるんだ」

どこもかしこも雪だらけ。

ひやりとした空気が頬を掠める。

身体の芯から寒いのは雪のせいだけじゃないだろう。

「……欲するか」

思い出すのは留衣の真剣な表情と言葉。

あのとき私は何かが変わると予感した。


どう答えても。

どう足掻いても。

とう動いても。


実際には大きく変わった訳じゃなけど私の心の持ち方は変わった気がする。





『欲したらって……そんなのあり得ないよね?

留佳先輩は私なんかに興味ないはず』

『例えばよ

そんなに重く考えないで』

『……

多分その時にならないと分からないけど……





私は拒絶出来ない気がする……』





嬉しそうにだけど寂しげに微笑んだ留衣の表情はいまだに瞼の裏に焼き付いて離れない。


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