きっかけは息子の一言
「どうして父さんと結婚したの?」
始まりは息子の一言から。
自身の存在を否定しかねない息子の質問に私は一瞬目を丸くする。
「……急にどうしたの?」
「聞きたくなっただけだよ」
私の質問に息子 音樹はあっさり答えてから私を見据えている。
……いやいや、娘に言うのならまだしも息子ってどうよ?
しかももう少しで成人な息子に。
見ろ、息子。
貴方のせいで夕飯が少し遅れてしまうぐらい私は動揺しているよ?
「……見つめられても分からないからね?」
「何が悲しくて息子に語らないといけないのか考えているのよ」
「姉さんの方がおかしくないかな?」
「……」
悲しいことに息子の正論を打ち破る術は私にはなかった。
娘 音嶺は夫に似たため物事の全てを人並みにこなせる才能がある。
……出来ればそれを駆使して結婚相手を見つけてほしいと願う私は愚かなのか。
そう錯覚するぐらい娘には男の影がない。
そこまで考えて思い出した。
「明日結婚式だっけ?」
「ちょっ!今の言い方何!?
まさか忘れてたの!!?」
「うん」
隠してても仕方がないのであっさり白状すると息子は唖然としてからツッコむ。
「馬鹿!!!」
とりあえず幸せ絶頂の息子にいらだち一発殴ってからリビングから追い出した。
相手を……梢ちゃんを妊娠させた奴の方が馬鹿だと思うのは私だけじゃないはず!!
「……何に怒っている」
夕食後、あまりにも不機嫌な私に夫 西木留佳は恐る恐る声をかけてくる。
不機嫌だった私は思わずジロリと夫を睨んでから音樹との会話を話す。
話終えた後夫は耐えきれなかったのかクスクスと笑いだすので思わず睨んでしまった。
すると夫は慌てて言い訳をしだす。
「音樹だって不安なんだろう」
「あの子が?」
「まだ19歳で来年には一児の父親だ
不安になるのは当然だろう」
「ふーん」
夫は音樹の気持ちが分かるのかものすごく真剣な表情をしている。
おそらく男同士じゃないと分からないことなのかもしれない。
「……俺だってそうだが?」
「はあ!?
貴方が!!?」
「その意外な事実を知ったみたいな表情は止めてくれ」
普段の澄ました表情が嘘のように顔を赤らめ恥ずかしがっている。
かなり貴重な夫に私はポカーンとしてしまう。
いくら50年以上の付き合いでも夫のこのような表情とカミングアウトには初めてかもしれない。
すると夫は少しばかり苦笑する。
「男なんてそんなものだ」
「……意外過ぎて何も言えないわ」
思わずため息ついてから明日が早いので夫に背を向けて横になる。
「貴方の……留佳さんの意外な事実を知れたのでよく眠れそう」
「そうか」
小さく呟くように言ってから夫が私の頭を撫でる。
幼いときから彼のこの行為が好きでよく拗ねたふりをしたものだった。
きっかけは息子の一言。
人並みに物事の全てをこなせる兄
人並み以上に物事の全てをこなせる妹
この兄妹と幼馴染みだった私。
これは様々な才能を持つ兄妹と幼馴染みの私の物語。