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冥葬機人Dナイト  作者: あやか
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第二幕:改造人間、ナメんなよ

なぁんだかなー……。

状況についていくのがやっとな気がする。

親が異世界で権力者って……。

エルザに連れられて大聖堂から出た俺は今、車(馬車みたいなデザインのワゴンに近い物)の後部座席で考え事をしている。

たぶん、かなり気難しそうな表情になってるはずだ。

俺は第三皇子、つまり少なくとも兄が二人いるってことだよな。

両親が俺を手放したのも……。

気になったので隣で困惑しているエルザに聞いてみた。


「エルザ」


「どうしました?」


「俺が第三皇子ってことは、少なくと俺には兄が二人いるってことだよね? ひょっとして、俺だけ日本に移されたのって、ひょっとしてお家騒動が原因?」


「……その回答は(さんかく)です。当時、私は子供だったので詳細は後年、陛下から少しだけお聞きになりましたが。当時継承権一位の第一皇女殿下への不服から、民衆院の有力議員たちが第一皇子殿下を勝手に担ぎ上げて派閥争いを起こしたのです」


エルザから聞いた説明の内容はこうだ。

二人の兄は政治には興味がなく、違う道で立身するつもりだった。

俺の姉にあたる第一皇女ってのが政治がめっぽう得意でそれもあって二人とも「姉に任せておけば帝国の将来は安泰」と考えて、それぞれ考古学と演劇の道を目指したので、第一皇女が継承権第一位となったわけ。

ところがだ、以前から貴族の友人が多く、民衆院との繋がりが薄かった彼女に対して民衆院のお偉いさんたちが疑心暗鬼に。

元々裸一貫から苦労してのし上がった連中なんでひがみ根性で貴族を敵視しており、坊主憎けりゃ袈裟も憎いの要領で第一皇女まで敵視するようになった。

そして何を血迷ったのか上の兄を担ぎ出して派閥を作ったもんだから権力争い勃発。

暗殺未遂事件が起きた末に姉貴は重傷を負い、身の危険を心配した両親の説得で継承権を放棄。

その代り、事態収拾のために貴族院の偉い人たちがしかたなく下の兄を担ぎ出した。

当然、権力争いはさらに泥沼化。

流石に暗殺沙汰は起きなかったが、俺が生まれたことで民衆院のアホどもがまた血迷った。

元々兄たちは継承権放棄を表明してたのに、民衆院の老害どもがくだらない理由で上の兄を勝手に担ぎ出したせいでとんでもないことになった。

結果、民衆院に対する国民感情は悪化の一途を辿っており、もう後には引けない手前になっていたそうな。

そこに俺が生まれたもんだから、あいつらは俺が皇太子になった場合に自分たちがどうなるのかと被害妄想に陥ってしまい、また暗殺未遂事件を起こしやがった。

それも複数回、しかも確たる証拠がないというオマケつきだ。

結果、両親は俺を守るために地球にいる知り合い、菅生店長に俺を預けることを決意。

俺が地球に送られたことで民衆院の馬鹿どもは安心したそうだが、この時点で俺の家族の怒りは頂点に達していた。

まず上の兄が皇位継承権放棄を改めて表明して、友好国の遺跡調査の名目で海外に脱出。

次に下の兄をしかたなく担いでいた貴族院の人たちが派閥を解散し、下の兄も久しぶりの仕事が海外だからと口実を設けて海外に。

上の兄が一時的とはいえいなくなったことで民衆院の老人どもの立場は無くなり、さらに下の兄まで国外に出奔。

継承権を放棄した姉貴が今更皇位を継ぐのも外聞が悪い。

結果、帝国は皇位継承権を持つ者がいなくなる、という構図が成立。

元凶となった民衆院の重鎮たちへの国民の怒りも頂点へ。

民衆院の老害どもは完全に立場をなくし、相次いで失脚、それからほどなくして『原因不明の現象で全員惨たらしく事故死』。

こうして皇族を巻き込んだ権力争いは解決したのだが、その直後に連中の恩恵を受けていた私兵集団が自棄を起こして武装蜂起して内戦勃発。

数か月で解決したものの、後始末の方が次から次へと発生するトラブルのせいで遅れに遅れ、それにつられて俺を迎えに行くのに十年以上かかった、という訳だ。

訳が分からなくなりたい。

以上。


「なんだかなぁ……」


「混乱なされるのも無理はないと思います」


「それで、継承権はどうなるのよ?」


「普通に考えれば殿下の物かと」


マジかよ……。

まあ、世の中敷かれたレールを突き進む自由もあるんだから、最悪の場合肚括るけどさ。


「ところでさ、今、俺たちは宮殿に向かってるんだよな。俺の服、これで大丈夫なのか? 中学の制服だし」


「事情が事情なので仕方ないですよ」


確かにそうなんだけど。

窓越しに流れる景色を見ながら、俺は考え事を止めて頭をからっぽにする。

いかにもファンタジー世界って感じの街並みだ。

なんか活気があっていいな。

でも皇族だからおいそれと外出とかはできないんだろうなぁ。

しかし、なんで地球に送られる前の記憶がないのだろう?

エルザに聞いてみたけど、エルザの方も首を傾げていたし。






数十分後。

俺はエルザの案内で玉座の間の手前まで来た。

扉の前には、明らかにやんごとなき身分だと一目で分かる男女六人がいる。


「お二人ともお待ちですよ」


俺より年下と一目で分かる少年に案内されるように、俺は扉を開けて玉座の間へと入る。

ひょっとしてあの六人は……。

そんな疑念にかられながら俺は玉座に座っている二人の姿を見た。

眼鏡をかけた初老間近の男性と、熟年ではあるがシワが全く見られない女性。

あの人たちが……。


「お前たち……。私の筋書きを無視して、私たちより先にソウイチに会うとは何事だ!!!」


男性の方が俺以外の六人に対して、明らかに怒気を込めて吼えた。


「まずは私たちに会わせてから、お前たちに紹介する手はずだったんだぞ! 何抜け駆けしてくれてんのよ!」


強い威圧感を放つ怒号であったが、最後の最後で言葉遣いが崩れた瞬間に威圧感が霧散した気がする。

だってさ、それと同時にいきなり声が甲高くなったんだぜ?

まるでギャグアニメのキャラだよ。

でも、見た目と座ってる場所から見てどう考えてもあの人が父親、なんだよね、俺の……。

母親らしき人だけじゃなくて、俺の兄弟姉妹であろう六人も、父親の大人気無さに戸惑っている。

でも、思い出せた……!

間違いない、俺の父さんだ!

隣にいるのは母さん!


「……と、すまんなソウイチ。お前の父親、ジゲルムント・アンベルテュールだ」


「あなたの母、マグダレーナ・アンベルテュールです」


自己紹介の後、二人とも玉座から立って俺へと近づく。

そして二人して俺を抱きしめた。


「すまない。十年以上もお前一人を向こうに置き去りにして……」


「ごめんなさい、ソウイチ……」


二人とも、よく見たら泣いている。

それを見た瞬間、俺の涙腺も一気に緩んだ……はずだった。

流れない……!?


「なんで! なんで泣けないんだよ! うれしくて泣きそうなのになんで俺、泣けないんだよ!?」


「ソウイチ!? ……あ!」


俺の悲鳴を聞いて、父さんがハッとした表情になる。

母さんも、それどころか二人の兄と姉も同様だった。






「改造人間!?」


宮殿に勤務する医師の控室。

俺は父さんたちに連れられてここにいた。

そして医師長と父さんに俺の体についてとんでもないことを教えられる。

それで聞き返した。


「何度も暗殺の危機に晒されたことはエルザさんから聞いていると思います」


「……うん」


「まだ殿下がお生まれになるもっと前、それこそ陛下が即位された直後の頃です。論文のおかげで若手のホープと言われるようになっていた私は先代医師長と共に生体改造研究チームに所属していました。有体に言えば改造人間に関する技術を完成させるためのチームですね。魔法と科学技術の併用で肉体の欠損部位を補完する機械の研究開発計画のためでした」


そんな計画が……。


「悪用の危険性が高い計画でしたが、民間にもたらされるメリットの方が大きく、陛下もかなり乗り気だったのでゆっくりとですが生体改造技術は進んでいったのです。そして、殿下がお生まれになった頃には安価で高性能な義肢が作れるまでになりました。そんなときに殿下が地球に送られるきっかけとなった事件が起きました」


俺を狙った暗殺未遂事件のことか。

医師長の顔は明らかに怒りが滲んでいる。


「奴らは度重なる失敗にも拘らず、殿下暗殺を諦めませんでした。そしてある日、血迷った奴らは他の子供たちと一緒にいるところを狙ったのです。ひどい光景でした。あの事件の生存者は殿下を含め六名。しかし、殿下たちですらお命は風前の灯でした。医師長に昇格したばかりの私は殿下たちを救うため、極刑を覚悟の上で生体改造手術を強行しました」


そんなことが……。

あの時、何か爆発が起きたのはおぼろげながらに覚えていたが、まさか俺以外を巻きぞにするとは。


「殿下たちのお怪我は予想以上で、それまで築き上げてきた全てのノウハウ、それこそ悪用阻止のために闇に葬った軍事用の物まで動員した末にようやくお救いすることができたのです。可能な限り本来の成長速度に合わせて改造人間としての機能と性能を開放・向上させる仕様であったため、肉体の成長に支障はありませんでしたが、代償もありました」


「代償?」


「改造人間であるが故に身体能力は人間の範疇を外れ、更に軍事用技術まで使用した弊害として、ある程度の年齢に達すれば戦闘用機能が開放されて人間兵器への変身が可能になってしまったのです。お救いするためとはいえなんとお詫びすればいいか……」


なるほどな。

それで昔から無駄に力が強いと思ったんだ。

そして、考えるよりも先に俺は言葉を発した。


「少なくとも、俺は医師長に感謝してる」


「…………はい!?」


「あんたがそこまでやってくれたから俺は今生きてる。父さんと母さんたちともまた会えた。そりゃ、最初聞いた時はビックリしたけどさ、事情を知ったら割り切るしかないんだよ。俺自身、その頃は知らなかったとはいえ改造人間だったおかげで地球(むこう)で危ない橋を渡れたんだから。他の五人がそれを知ってどう反応するのかは分からない」


そうだ、残りの五人は怒っているかもしれない。

でも俺は改造人間だったから地球で無事に過ごせた。

だから、医師長に対して悪印象は抱いていない。


「だからこう言える。助けてくれてありがとう」


正直に感謝の意を伝えただけだ。

なのに医師長はいきなり泣き出したんだよなぁ。

でも、それが嬉し泣きだって見ただけで分かるから何も言えなかった。






数十分後。

俺は帝都の一角にいた。

あの後、俺はほぼドサクサ紛れに宮殿を抜け出し、その辺を適当に歩いていた。

白い建物ばかりだな。

天井だけは白以外のが多少ある程度で、外壁とかは白一色。

あれか? 法律とか条令で決めてあるのかな?

それはそうと、この格好(中学の制服)はここでは目立つのか、みんな俺の方をチラチラと見てるな。

あと、なんか不穏そうな気配を放つ人たちに取り囲まれたし。


「俺こっちじゃ恨み買ってないよ。……戻ったばかりだから!」


いやぁ、なんか既に武器とかもって取り囲んでるんだよ?

この時点で正当防衛確定でしょ?

だから目の前にいる奴目掛けてとび蹴り。

派手に吹っ飛んだねー、縦にくるくる回転しながら。

えっと、敵はさっき吹っ飛んだ奴を含めて二十人ぐらい。

それじゃ二人目行こうか。


「せーの!」


急接近して、足を掴んで、二人目をそのまま鈍器として使用!

適当に振り回しただけで敵を半分以上減らせたよ。

やったね!

流石に向こうも距離を置いてきたんで二人目をその辺にポイ捨て。


「なあ、俺を狙うのは何でよ? あんたらの恨み買った覚えないんだけど?」


「とっくに買ってるだろうが!」


「お前らが殺る気満々で取り囲んでくるからだろうが!」


逆ギレしてきたもんだがらこっちも声が荒くなっちゃったよ。

しかも残りの内の一人がなんかブツブツ言ってるし。

おまけにそいつの数歩離れたところに魔方陣が発生してる。

召喚魔法か……。

なんかメカメカしいのが出てきたぞ!?

剣と魔法の世界観から外れてる気がする。


「なんだそれ?」


「コンバウトマタを知らないのか? ……そういえば()()からこっちに戻ってきたばかりだったんだな」


こいつら……!

俺が地球からこっちに来たことを知っている。

となると……。


「最初っから俺が誰かを知ってて襲撃したってことか!」


「もっと早く気づけ!」


「うるせえ! もう一回とび蹴りだ!」


コンバウトマタとやら目掛けてとび蹴り!

改造人間だから怪我なんて気にせず顔面に直撃させたぜ。

……が、当たりはしたが見た目通り金属、それも随分と頑丈なので出来ているらしく、塗膜が剥げた気配すらない。、

流石に改造人間でも前準備無しじゃキツイか。

コンバウトマタは鎧っぽいデザインで四本腕。

あれで殴られたら危ないから慌てて距離をとる。

腕の形を見る限り、どうも接近戦は想定してないようだ。

あの腕はどう見ても銃とかを内蔵してる形だ。

……ということは、ヤバい!

そう思った瞬間、向こうは腕全部をこっちに向けて、予定調和といわんばかりに発砲してきやがった!


「危ねぇー!」


ギリギリで避けられた。

だが、真後ろにあった露店が木端微塵になってしまった。

ピーナツクリーム饅頭が美味しそうだったのに……!


「おい! 俺が狙いなら他を巻き込むな!」


「知るか! 貴様を始末できるなら誰が巻き添えになろうが構わん!」


そういうスタンスか……。

『不幸にも事故死』したあの連中と同じってわけね。

頭にどんどん血が上ってきてるのが分かる。

直後、視界に文字が紛れ込む。

これが、合図ってことか!

念じるだけでOKみたいだけど、それじゃ寂し過ぎるからちょっとしたポーズを構えながら叫ぶことにした。


「着甲!」


変身すると決めながら叫んだのと同時に、周りが……いや、自分自身が輝きだす。

あっと言う間に自分の姿が変わったと自覚できる。

手も足も、メカメカしい鎧に覆われている。

顔に触ろうとすれば、顔全体も兜か何かで覆われていることに気付けた。


「変身するとこんな感じになるのかぁ。それはそうと、こっちはもう容赦しないぞ!」


さっきとは違い、俺はコンバウトマタ目掛けて疾走。

今度は張り手だ!


「押し出しかましてやるど!」


コンバウトマタの胸板目掛けて張り手をぶちかます。

そこまで力は入れてないが、それでも胸部装甲に手形ができるほどの勢いだったようだ。

この調子でもう一度張り手を食らわせれば内部の機械が動作不良を起こして動けなくなるのだろうが、下手すると吹っ飛ばしてしまうかもしれない。

そうなったらさっきみたいに周りが巻き込まれるかもしれないので、指を揃えて指先でへこんだ箇所目掛けて貫手ぬきて

凄い耳障りな騒音を挙げて、俺の右手がコンバウトマタの胸部装甲に着き刺さり、背中まで貫通した。

右手を抜いた直後、風穴があいたコンバウトマタはそのまま各部から爆発が噴出し、仰向けに倒れた、悲鳴のような騒音を出しながら。


「厄介なのは倒したけど、……後始末が残ってるんだよなぁ」


そう、俺に襲い掛かってきた連中自体は残っている。

変身前ですら圧倒できたんだ、今なら惨劇だろうな。

多分、その時俺は笑顔だったかもしれない。

兜ですっぽり顔が隠れていたので誰もそれに気付かなかったけど。






そんなこんなでピーナツクリーム饅頭の恨みを込めて残りを全部片づけた後、俺はコンバウトマタを椅子代わりにして座っていた。

言っておくが殺してはいないからな?

数分前に兜が着脱可能だと気づき、今は兜を脱いでいる。

それに、なんだか騒がしい音が近づいてきている。

衛兵か警察……か?


「どっちにしろ、この状況じゃ事情聴取とかされるんだろうな。ピーナツクリーム饅頭……」


11月2日、後書きの追加、及び執筆時のエピソード確認用のサブタイトルを本文中から削除。

慌てて投稿したんで後書き書くの忘れてた。

ちなみに、「健康診断とかで改造されてるのバレるのでは?」とか「確か主人公って受験シーズン中に大怪我したんじゃ?」といった疑問に関しての回答は次回の本文で。

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