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冥葬機人Dナイト  作者: あやか
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第一幕:俺の家族は権力者してました

「秀児、暇?」


「今日は親の会社のパーティがあるんだ」


「そっか」


今日は暇が確定だな。

私立の中等部に通ってた友達(名前は芝野(しばの)秀児(しゅうじ)と別れ、俺は一人家路を歩く。

商店街は相変わらず賑やかだ。

やっぱり都内、それも23区だと衰退しにくいのだろうか?


「そーちゃん。今帰りかい?」


「うん」


「なんか買ってくかい? 肉を食べないと体力が戻らないよ。浪人生になっちゃったんだからなおさらだよ」


「いや、今日は外食する気だからこの次ね」


「残念。ま、それを待つよ」


肉屋の店主のおばちゃんに声をかけられた。

その人以外にも商店街の人たちから声をかけられている。

俺は阿武(あんの)壮一(そういち)

親のいない環境でこの商店街の人たちに育てられた武闘派で血の気の多いマセガキだ。

数日前に中学を卒業しているが、進学はしていない。

受験シーズン中に大怪我を負ってしまい、それどころじゃなかったからだ。

なので浪人生活が確定している。

……高校浪人用の予備校なんてあったかな?

そう思いながら馴染の模型店の前を通り過ぎようとしたところ、店長が慌てて店から飛び出して俺を呼び止めた。


「そーちゃん。注文してたの全部届いてるよ」


「マジで!? じゃあ、ちょっと待ってて。帰ったらすぐに金揃えるから!」


「毎度ありがとうございま~す」


やっと届いたか。

こうしちゃいられない。




俺は小学校に入ってから一人暮らしをしている、というか保育園に入った頃には既に両親と離れ離れだったけど。

保育園にいる間は身元引受人をしてくれてるゲーセンの店長の家にいたんだけど、卒園と同時期に旦那さんを労災で亡くした娘さんが子供を連れて戻ってきたので、俺の方から一人暮らしがしたいと言ったんだ。

遠慮し過ぎだって店長たちに怒られたけど。

もっとも、それを店長から又聞きした両親の手配で入居者のいないアパートの一室に引っ越すことができたんだけどね。

両親のことは、全然覚えていない。

保育園に入る前の記憶がなくて、その頃に両親と離れ離れになったと何年か前に店長から聞かされた。

……一人ぼっちにされたことに関して、もし会えたら言いたいことはあったんだが、店長からの又聞きで両親が止むを得ない事情(相当ヤバい内容なのか詳細は教えてもらえなかった)があったとはいえ後悔していることを俺は知っている。

それを示すように、誕生日には両親からケーキが届いたし、生活費の名目で月に一度は十何万もの小遣いが送られてきた(子供には大金過ぎたので総額の半分以上は部屋に貯金してるが)。

だから、会える日までという条件を心の中で設けて、その間だけ両親を許すことにしたんだ。

でも、寂しいという感情は消えない。

俺の場合、それをアニメや特撮、ゲームにハマって紛らわせる方法を選んだ。

プラモデルに限らず、玩具や映像ソフトというのはとかく金がかかる。

幸い、両親が送ってくれる小遣いの額が額なので満足できる程度には揃えられたのだが。

まあ、それだけに金を費やすのもどうかと思って映画を見たり外食を多くするなど、金の使い道はそれなりに多くしてはいた。

誰に向けたものか分からない自分語りはこの辺にしておいて、俺は走ることに意識を集中する。

しかし、それは一分ぐらいしか続かなかった。




家まであと少しというところで黒いスーツを着た女の人たちに取り囲まれてしまった。


「何だよ!?」


俺、なんか罰当たりなことしたっけ?

……小学校のころからエロマンガ読んだりエロゲーメーカーのサイト見てたりしてたけどさ。

エロは生命力のシンボル!

……そうじゃなくて。

俺、黒服たちに囲まれるようなことをした覚えが……ちょっとはあるか。

昨日なんかクラスメートのお父さんに痴漢冤罪かけようとしたクズ女を偶然見つけたから、闇討ちして顔をグシャグシャにしたっけ。

確か先週は路駐してた車のナンバープレートを外して警察沙汰にしたな。

で、先月は近所の肉屋のお姉さんにストーカーしてたチンピラがヤクザの組の名前出した時に、出てきた組の名前から電話番号調べて本当にそいつが組員か確認した。

結果、嘘だったんであっという間に本物の組員に連れて行かれてたな。

なんていろいろ思い出してたらそのうちのリーダー格そうな人が話しかけてきた。

ウサギの耳みたいなのが頭にくっついてるのは目の錯覚だろうか?


「阿武壮一様ですね?」


「……そうだけど、なんで様付けなのよ?」


「威圧的な態度で申し訳ありませんが、お迎えに上がりました」


迎え?

誰からの迎えなのかと。


「我々はあなた様の御両親からの使いです」


「……!」


両親から!?


「聞きたいことはある。でも家で待ってもらえるかな? 先約があるんだ」


「はい」


という訳で一度黒服たちを家に上げ、俺は机に仕舞ってた札束を握りしめて模型店へと走り出した。

数分後。

注文したプラモデルを全部購入し、急いで戻った。


「……あの、そんなに買われたのですか?」


「見れば分かるでしょうが。小学校に入ってから一人だったし、1ルームでも手広過ぎたからこうやって買ってきたもん並べるぐらいしかすることなかったんだよ」


部屋には黒服たちが全員入ったため、急激に狭く感じるようになった。

ちなみに俺と言えば彼女たちが下手なせいか自然と態度が大きくなっている。


「まあ、お茶は出せないけど、ゆっくりしてよ。それで、あんた名前は? なんで今になって迎えに?」


「エルザ・バーナビーと申します。頭に生えているのは本物の耳ですのであしからず」


……本物!?

俺が思いっきり疑いのまなざしを向けても表情を変えず、エルザは話を続けた。


「身元引受人からある程度聞いてはいると思いますが、御両親は止むを得ない理由事情であなた様を手放しました。詳細は聞かされてはいないと思われますが。先日になってようやく『事情の原因となった事態』が解決したため、ご両親は我々に壮一様をお迎えに行くようにと命じられたのです」


なるほど、ね……。

両親には会いたい。

だけど、本当に会っていいのかという気持ちもある。


「そうは言われても、こちとらここでの生活ってものがあるんだけどね。進学もしないとあかんし」


「受験シーズン中のお怪我で進学どころではなく、今年は高校浪人だと身元引受人から聞きましたが?」


……痛いとこ突いてきたな。


「更に、壮一様の周囲は色々と血生臭いことがよく起こるとも聞いております。あの商店街でひったくりをしたチンピラが両手の指を全部刃物で滅多刺しにされ、通っていらした中学校で悪質ないじめっ子が腰の骨を粉砕されて一生車椅子確定の重傷を負ったとか」


「うっ!」


もっと痛いとこまで突いてきやがった……!

お前そんなに親のことに俺を連れて行きたいのかよ!?


「……それ、俺がやったってことはどうせ知ってるんだろ?」


「私の部下の中には壮一様を一時期とはいえ影ながら護衛していた者もいます。今あげた事例はその者達の報告で知りました。事情や被害者の非はどうあれ、明らかな犯罪です」


「口外しない代わりに親に会えってことか?」


「会うだけではありません。今年からご両親のもとへとお戻りしていただきます。息子の怒りは代わりに受け止めるから手段を選ばず連れ戻せと厳命された以上、こちらとしては脅す格好となっても壮一様を連れ戻すつもりです。幸い、ご両親はこの国とは違う国におられます。あ、犯人引き渡し条約を結んでいない国なので安心ですよ」


エルザの声に冗談は含まれていない。

ここまで言われて断れば、間違いなく警察やその筋に情報を流す気だ。

そうなったら最後、逃亡生活か親のとこに行くかの二択しかない。


「どうせ親のとこに戻るしかないんだろ? 戻ってやろうじゃん!」


「ありがとうございます!」


OKしてやったら大喜びしたよ。

他の黒服たちも喜んでいるし。


「そういえばパスポートどうすんのよ? 俺持ってないよ?」


「無くても問題ない方法があります。万が一にはご両親が権力を使って解決いたしますから問題ありません」


そっちにとって俺はVIPってことか。

まさかフリーパス指定とはね。


「……俺の親ってその国の偉い人なのね。あ、そうだ。向こうに着き次第、尻尾があるかどうか確認するからな!」


今度は固まったけど、これは譲れない。

今すぐじゃないだけ既に譲歩済みだい!

と、親のとこに戻るにあたってやらないといけないことも伝えないと。


「でも今すぐってわけにはいかないよ。みんなに別れの挨拶しないといけないし、この部屋にあるものもどれだけ持っていけるかも確認したいし」


「壮一様の私物は全て持ち込み可能です。持ち運びはこちらで行います」


「それじゃあ、明日にでも商店街に事情を話してくるよ。それで、エルザたちは明日までどうすんの?」


「都内の廃屋にアジトを構えていますので」






次の日になってからは慌ただしかった。

みんなに外国へ引っ越すことを告げたら商店街中が大騒ぎ。

どこに引っ越すのか聞かれたけど、エルザから聞き忘れてたのではぐらかしておいた。

ゲーセンの店長が連絡したらしく、都内の一等地からはるばる秀児まで詰め寄ってきたし。

商店街のみんなに一通り挨拶した後、今は入口の内の一つで秀児と取り留めもない雑談を交わしている。


「フリーパスで外国へ引っ越しかぁ」


「俺も、正直驚いた。でも向こうは俺がやったことをある程度把握してるみたいでさ。断ったら間違いなく逃亡生活確定だったし」


「まあ、バレたら確実にパトカーに乗せられるようなケースもかなりあったからねぇ。でも、壮一君一人の責任にはできないでしょうに。被害者はみんな悪党なんだしさ。僕も壮一君に会ってなかったらそいつらの仲間入りしてただろうけど。ホント、感謝してるよ」


「病院送りになるまでシメたのにか?」


「そうしなきゃ僕更生できなかったんだけど」


小学校に入ってからの話だ。

あの時の秀児は確かにとんでもなく嫌な奴だった。

初めて会ったときにトラブルを起こした末、病院送りにした。

でも、秀児があんなに嫌な奴だったのにはちゃんとした理由があったし、その一件であっと言う間に更生してくれたのも事実。

だから秀児は自分の親たちが俺に対してキレた時に、声を荒げて庇ってくれた。

あとは秀児の両親と俺とでお互いに謝ってこの件は落着、ということにしてもらったのである。

それ以来、通う学校は違うけど俺と秀児は友達になった。

大げさな言い方だが、親友と言った方が正しい。


「俺が向こうに行っても、俺はお前の友達だよな?」


「何当たり前のこと言ってるの?」






それから日は経って引っ越し当日。

部屋は解約済み、荷物も全部一足先に向こう側だ。

荷物を持っていくときに部下も全員向こうに戻ったため、今俺の側にいる黒服はエルザだけ。

そういえばここ数日間、ゲーセンの店長夫婦とエルザはどこか親しげに話してたな。

店長に確認したところ、どうもエルザとは昔馴染みだそうだ。

見送りにはゲーセンの店長(名前は菅生(すごう)夏印(ゲイン)。外国から帰化したらしい)と秀児だけが来ている。

後ろ髪を引っ張られたくないからこの二人だけでいいって頼み込んだからだけど。

……そういえば、引っ越すのはいいけど車の手配がないのはなぜだろう?

顔を見る限り、秀児も俺と同じことを考えているみたいだし。

でも菅生店長とエルザはちょっと思わせぶりな顔をしている。


「秀児。これから起こることは他言無用で頼む」


「別にいいけど、何が起きるの?」


菅生店長の頼みを了承しつつも秀児は疑問を口にする(俺も同意見だ)。

その答えは菅生店長ではなくエルザが、それも行動で教えてくれた。

エルザが何か独り言を言ったと思ったら、着ている物が黒服から何処かの少数民族の宗教衣装みたいな露出の多い物に変わったのである。

尻尾の有無を確認しようかと思ったけど、向こうに着いてからと自分で条件を設けたので。


「エルザさんの耳、本物?」


「あの耳は本物だ」


「俺も当人から確認済み」


俺が補足するの尻目に、エルザは独り言を言いだす。

内容からして、ファンタジー系のラノベとかネット小説とかよく設定されている魔法の詠唱のような気が。


「壮一、今までお前の両親に口止めされてたが、お前が今から行くとこは『地球上には存在しない国』だ」


「……はい?」


菅生店長から突然告げられ、俺は茫然となる。

直後、エルザの独り言が呪文の名前と思しきものを大声で叫んだことで終わり、俺とエルザの足元が光りだした。


「『ザビーネッツ』でも元気でな!」


「それが俺が行く国なんだね!?」


「Yes! ヘマするんじゃねえぞ!」


「分かってるよ!」


菅生店長からの選別の言葉に、俺は元気よく返事。

直後、足元の光が強くなる。

それを見てか慌てて秀児が呼びかけてきた。


「また会えるよね!?」


「当たり前だろ! 何年かかっても…………」


言い終わる前に、光に完全に包まれてしまった。

十数秒間ほどエレベーターで上の階に行く時の感覚を感じた後、光があっという間に霧散。

目の前に映ったのはなんかやたら広い空間。

テレポーテーションってやつか!?


「えっと、ここが『ザビーネッツ』?」


「はい。厳密にはザビーネッツ帝国の帝都、『デウス・エゴ・スム』にある『ヴァーデ・モルトゥス・ヴァーデ大聖堂』の最深部です」


呆然としてる俺に対して、エルザは若干嬉しそうな表情で説明してくれた。

なんというか、聖堂というだけあって神々しいな。

なんて思っていたら、隣にいたエルザが俺の目の前に移動して、片膝ついて跪いてきた!


「では改めまして。おかえりなさいませ、ザビーネッツ帝国皇室第三皇子、ソウイチ・アンベルテュール殿下。陛下と妃殿下がお待ちです」


……皇子?

俺が?


「えっと、陛下と妃殿下って、俺の両親ってことだよね?」


「その通りです」


「………………ええええええええええええ!!?」




はい、初オリジナル作品です。

今思うと主人公が凄い悪童に思えるのですが、執筆中はそう思えなかったという不思議。

ライターズ・ハイってやつですかね?

この調子で完結まで突き進めればいいのですが。

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