Other tales3
真刃と付き合う……!?
ここにきてようやく貴矢は薔の真意を知った。
まさか真刃との付き合いを望んでいるとは。言葉を無くしている彼など露知らず、嬉しそうに真刃の手を握る少女。
真刃はされるがままになっている。
「あ、ちょっと、薔さん……? 君は真刃が好きなのか……?」
回答者の彼女はいつものように快活に笑い、
「あはは。当たり前じゃん。って人前でそんな恥ずかしいこと言わせないでよ!」
照れながら怒った。
「……」
一体どい返事をすればいいのか。ダメだと言って理由を問われれば、閉口するしかない。
うーーん、日本では認められてないから?
だが問題児相手に伝わるのだろうか? じゃ、アメリカ行く、とか平気で言いそうだ。
彼が悶々と思考しているとここで初めて、告白された少女が応えた。
「悪いけど、それは無理よ」
薔の態度が一変、驚きに包まれる。真刃の手は握ったままではあるが。
「何故なら私はあなたに対して愛がないから」
「!!」
教室にいるクラスメートたちは固唾を飲んで見守っている。
しっかりと薔の目を見つめ、無表情に、彼女は言う。
「残念だけど、お引き取り願うわ」
「え、え、え? 真刃ちゃん、あたしのこと好きなんじゃないのぉ!? じゃ、じゃあ誰に対しての愛はあるのよ!?」
本気で両想いだと思っていたらしい薔の脳内を是非じっくりとみたい所だ。いや、今はそれより薔が投げかけた疑問、僕も気になる!
全く表情を変えずに、淡々と彼女は続ける。
「無いわ。誰に対しても、ね」
教室内にいた男子と貴矢の口から、安堵と無念の溜息が漏れる。自分以外じゃなかった安堵と、自分でなかった無念だ。
「え、え? じゃあ、貴矢君にも無いの?」
ここで僕に振るのか、やはり薔の行動は読めない、と感じつつ貴矢は少し期待の籠った目で、隣の美少女をみる。
「無いわね」
無碍もなかった。
「……」
顔で笑って、心で泣いて。貴矢の笑顔はひきつっていて、心は号泣していた。
「だけど、」
しかし続く言葉に再び気合いを入れ直す単純な男でもあった。
「私が出会った中で、最強の男だと思ってるわ」
そう言った彼女は、貴矢に向かって、薄く、微笑んだ。
「!」
情緒がない真刃は、ないが故に口元をあげたり、目が細くなったりする事がない。わかりやすく言うならば、自然な笑顔が出来ないはずだ。つまりこの微笑みは真刃が無理やり作った表情なのだが……今の貴矢にはそれでも、十分だ。それだけで、互いの信頼の深さを感じとる。
「ええ? それってどういう……?」
教室に残っていた全員を代弁をして、薔が問おうとしたが、彼女の続く言葉は続けなかった。なんと彼女の声が、かき消された。
「うぃっすーー! あれ、何でみんな静かなん? お、貴矢。んン、真刃チャンに薔チャンまで!? なになに、恋バナっすかーー!」
カノジョと共に教室に戻ってきた、綴がこの快挙者だった。
「あ、綴……」
「おぉ、貴矢君。やりますなぁ。三角関係ですかい? ってそれよりさぁ、さっき霞がおもろかったんだよー」
「ちょ綴君、やめてよ!」
恥ずかしがりながらボディブローを打ち込む美術部エース。カレシは地面にひれ伏す。
「綴! 大丈夫!?」
ピクリとも動かない体に向かって駆け寄る貴矢。なんとか綴のおかげでクラスも喧噪を取り戻した。薔との会話を強引に終わらせてくれた彼に感謝しつつ、倒れている物体を揺さぶる。
「きゃーっ、綴君。大丈夫なの?」
霞が白々しく心配する。本当に彼女のキャラが分からない……
「何だ、この邪魔なゴミは? 入口を塞ぐとはいい度胸だな」
後ろから現れた長い脚が、ゴミを踏みつける。
「いててててぇ! おい、猛、てめえ!」
「ほう、このゴミが何か言っているぞ。だが悪いな。俺は日本語、英語、フランス語は話せるがゴミ語は専門外なんだ」
委員長会室から帰ってきた猛は容赦なく、罵倒し、踏み倒す。首を捻ってどなる綴だが、あいにく誰にもゴミ語は解さなかった。
「くっそーーーー! 俺はゴミじゃねーーー!」
綴の叫びも昼休み終了のチャイムにかき消された。
結局その日は、猛も何もつかめなかったらしく、王捜しの行動に起こせなかった。
しかしこれが彼らの、平和の最後の日。
貴矢が猛に頼らず、己の力だけで情報収集しておけば、少しは変わった明日だったかもしれない。
だがすでに決まった未来は、止まらない。




