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Other tales2

いや、何で僕? 

 結局、あの場で予鈴が鳴ってしまったので薔と話せないまま授業を迎えた。無論先生が語る言葉に集中出来ない。

 何故突然に薔は僕との対話を望んだのか。彼女とは話した事すらない。クラス一の問題児として、こちらが一方的に知っているだけだと思っていたが、どうやら向こうもこちらを知っているらしい。

 話たいことがある、と薔は言っていた。当然思い当たる節はない。しかし唯一僕と薔を繋ぐモノが。それは、

「……真刃、か」

 ポツリと貴矢は呟く。聞かれるものは、『どうして二人は同じ時期に転校してきたの』、『真刃が無表情なの、何でか知ってる?』、この程度だろう。

 薔の人間性は全く知らないが、委員長や鉄仮面少女との会話を聞く限り、頭の回る方では無い。まあ予測していない問いがきても、たいした質問でもないだろう。

 ろくに授業を聞かぬまま昼休み。いつものメンバーで食堂に行こうとしたが、

「わりぃ。オレ今日、霞と食べるから!」

「俺はもう少し事件について調べようと思うから、委員長会の部屋に行く。昼飯を食う時間が惜しい」

 二人ともそれぞれの予定が詰まっていた。

 綴が霞と昼食を食べるのは時々あるのだが、猛が事件に執着心を見せたのには驚いた。貴矢も勿論事件の早期捜査を望むのだが、被害者、加害者の名前、学年、所属クラブその他諸々が分かっていない以上、猛をあてにするしかない。

 さて一人で食堂でも行こうかな、と思っていた矢先。

「貴矢君、ちょっといいかしら」

 バカでかい声が後ろから掛けられた。振り向くと予想通りの女の子が。

「なにかな……?」

「こっち来て」

 普段の弛んだ顔でなく表情が硬い。そのまま薔は教室の真ん中にある、真刃の席まで連れていった。真刃の机の上には購買部で買ってきたのか、菓子パンが三つある。貴矢が隣の誰かの席に勝手に着くと、何も言わずパンを一個くれた。

「あ、あれ。真刃、くれるの?」

「……ん……」

 肯定の印か軽く頷く真刃。腹が減っていたので有り難く頂戴する。その様子をじっと見つめる薔。ゆっくりと真刃の前の席に、こちらを向いて座る。

「あの、貴矢君。重要な話だから聞いてくれる?」

 顔は至って真面目だが、声が大きい。

「重要な話なら、クラスの中でしていいのか?」

 今教室に生徒は皆無ではない。昼休みで大半の生徒が食堂へ押しかけているといっても、その喧噪が嫌で購買部で買って教室で食べる生徒もいる。

 この二年A組も例外ではなく、十人くらいのクラスメートが残っていた。

 貴矢はこっそり、君の声もデカいしね、と心の中で付け加える。

「いえ、いいのよ。よく言うでしょ、木を隠すにはなんとやらって」

「……」

 そのセリフどこかで聞いた気が…… しかも今回は完全に隠せていない。今更言うことでもないが薔の声が大きすぎる。いくら森の中でも一際大きな木があれば隠せないのと同じだ。

「じゃあ、聞いていいかしら?」

「……まあ、いいよ」

 本人は声を潜めたつもりらしいが、十分に教室全体に聞こえている。貴矢は半ば投げやりの気持ちで許可した。

「あのねぇ……」

 何故かそこでちらりと先程から一言も喋らない少女を見て、また僕に視線を戻す。

「……貴矢君と真刃ちゃんって、付き合っているの?」

「!!??」

 食べていたパンを喉に詰まらせむせる貴矢。

 い、今目の前の少女は何といった? 付き合っている!? もしそうだったら僕としては嬉しい限りだが、ってそうじゃなくて!

「な、なんでそんな仮説に行き当たってのか、聞いていいかい……?」

 薔の予想だにしてなかった問に動揺を抑えきれない貴矢だが、なんとか質問を投げ返す。隣の真刃はこの期に及んでも表情を変えない。教室に残っていた他の生徒の興味も、一気にこちらに集まる。

「いやね、あたし昨日真刃ちゃんの部屋に遊びに行こうとしたの。そしたら丁度真刃ちゃんが部屋から出てきたから、どこいくのかなってこっそりついて行ったのよ。そしたらビックリ! 真刃ちゃんったら、貴矢君の部屋に入ってくじゃない!?いやーホント仰天したわ!」

 顔面蒼白になりながらも、目だけで真刃を睨みつける。つけられた彼女は素知らぬふり。

 まさか綴だけじゃなく、薔にも見られていたなんて…… だがここで素早く頭の回る男が貴矢である。

「……ああ、それね。昨日真刃がノートとり忘れたトコがあるって言ったから、見せてあげてたんだよ」

「……ふぅーん」

 貴矢の好い感じの言い訳に、案の定何の言い返せない頭の残念な少女。教室にいた男子生徒から送られていた殺気も徐々に収まっている。

「じゃあ、ホントに何もないのね!? Hな事とかもないのね!?」

 やけに食い付くなぁ、と思いながら貴矢は断言する。

「ないよ。全くない」

 これは若干嘘を孕んでいるが、さっきのセリフがすべて嘘だったのに比べれば大したことない。別に僕から行動に及んだ訳ではないのだし。

 薔は何故か、真剣だった顔を緩ませ安堵の様子だ。僕と真刃が恋人同志でなかったところで、彼女にメリットがあると思えないのだが。

「いやーあはは、良かったわ! これであたしと付き合えるわよ、真刃ちゃん!」

『!!!????』

 先程とは別の意味で、全員が言葉を失った。

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