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Other tales

 真刃との会合であり、綴に衝撃的な場面を見られた次の日。

 貴矢は周囲の目に怯えつつ登校した。登校とは言っても寮制のため、登校時間は1分とかからない。が今日は体感時間が何倍にも感じられた。なにしろ、綴に、あの噂大好きの綴に。真刃を押し倒しているところを見られてしまった。正確には押し倒したわけではないのだが、傍からみれば完全に誤解を生む状態ではあった。今頃クラスでは綴が皆に事のあらましを言いふらしているだろう。

「いやー……ここまで学校休みたい思ったのは、いつ以来だろう?」

 だが休まない。

 彼は決して、休まない。それは今日から彼の殺傷事件について調査を行う、と決めたからである。

別に真刃との約束が絶対的、というわけではない。ただ事件が起きたから。貴矢と真刃がらみの事件であるから、である。この点において、彼は公私混同しない男であった。たとえどんな、あることないこと言いふらされようと、事件解決のため学校に行かなくてはならない。

 「さて……」

 二年A組の前まで来た。扉をあけるのを躊躇う。

 いやはや、どんな風に噂が広まっているやら。事件解決には情報が必要不可欠だが、みんなに引かれて誰からも相手にされない可能性もありうる。

 だが……好きな女の子のために、動く。

 どんな苦境が目の前にあっても。

 彼は止まらない!

 鼻から息を吸い込み、一気に戸を開く!

 この瞬間まで、彼は自分をある意味過大評価し過ぎていた。

 おそるおそる教室に入る。扉の近くにいた生徒がちらり、とこちらを見るが何も言ってこない。

 あれ……?  

 貴矢は結局誰にも囃し立てられる事なく、無事に自分の席まで辿りついた。

 頭の中は安堵より、疑問が満ちている。口が紙より軽い綴が、何も言いふらしていないとは考えにくい。

 自分の席に座り、後方の綴の机をみるが、空席である。

 まだ登校していないだけか……? カノジョさんに聞いてみようか。

 教室の中ほどより少し後ろの霞の席をみると。件の男は、そこにいた。教室の喧噪もさることながら、二人は顔を近づけあい、小声で話しているようだ。まるでそこは二人だけの空間、とでもいうように幸せそうな空気が満ちている。

 しばし貴矢が観察していると、

「よぉ。あの色ボケはどうかしたのか? 昨日買い物から帰ってきてから、ずっとあの調子だぞ」

 呆れと見下しの含んだ声が、正面から聞こえた。

「あ、おはよ、猛。ふーん、買い物ねぇ……」

 そういえば、綴が一緒になんとやら、と言っていた気がする。あの時はそれどころではなかったが。

 猛は恋人同士から目を離し、顔を貴矢に寄せる。

「昨日の件、調べてきたぞ」

 途端に体の向きを変え、会話に集中する貴矢。

「被害者に何か関係が……?」

 若干期待の籠った声で聞いたが、委員長は小さくかぶりをふる。

「いや、残念ながら何も関係がなかった。出身中学も調べてみたけれど、二人とも違う。容疑者の方も出身は違うみたいだ」

「そうか……」 

 何らかの関連を見積もっていただけに肩透かしをくらった気分だ。

 今回の王は被害者、容疑者に何の関係性も持たせずに、ただ暴行をくわえ、自宅送りにしている。

 もしかして、昔の僕のようにイジメにあっていて、報復のためにうごいているのか? 

 推論が頭をよぎるが、自宅謹慎中の彼らはそもそも知り合いですらない。

 それとも王はただの愉快犯であり、ただ気のむくままに行動している可能性がある。この場合は果てしなくマズい。いつ、どこで、誰を使って暴行事件を引き起こすかわからないからだ。事象が規則的でないため、次の行動を予測出来ない。もし本当に考えなしの王ならば、厄介なことにな……


「おはよぉおおおおおお!!!」


「る!?」

 思わず心の声が漏れてしまったが、猛は気づかなかったのか現れた大声量の女と対峙していた。

「おい!! 薔! 何回言わせる!? その爆音で教室の奴らが迷惑しているのがわからんのか!」

 いつもと変わらず、薔は素知らぬ様子である。

「あは、ごめーん。委員長サン。そんな怒ると、将来禿げるよ?」

「お前に心配させる言われはない」

「あはは、強がっちゃってぇ!」

 やれやれと頭を左右に振るたび、彼女のセミロングの髪が揺れる。吊り目だがそう感じさせないのは常に快活に笑っているからだろう。

 ラブラブカップルの方を見るとまだ仲良くやっていた。綴が霞の手を握っている。

 一方ではまだ怒り続ける委員長が、問題児相手に奮闘している。

「薔、少しは声のトーンを落とそうと考えたことはないのか? いや、バカすぎてそこまで気が回らないか?」

「あはあ、言うねぇ。いいじゃん、授業中は静かだし」

「それは寝ているだけだろう?」

 やばい、猛がキレそうだ。拳は力を入れすぎて真っ白になっているし、目元も痙攣している。貴矢がハラハラと見守っていると意外なことに、先に切り上げたのは薔の方であった。

「ま、ね。そんなことよりさ、私、話たい人がいるの」

「あ?」

 猛も突然の薔の言葉に戸惑っている。いつもなら真刃の方へ走っていく彼女なのだが……

 入口の方から歩いてきた薔は、猛の前で立ち止まり、こっちへ向けてどでかい声で言う。

「あなたよ、貴矢君」

 思考が停止した。クラス全員の視線が集まる。綴と霞も驚いてこっちを見ている。そんな中、唯一何も感じていない少女は、何とも言えない目で薔を見ていた。

「えーっと……僕?」

 と同時に朝の予鈴が鳴った。

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