After School in the Dormitory2
「どうしようも……ないんだ」
貴矢の声は暗く、俯いているため聞き取り辛い。
「何? どうしたのよ?」
彼につられ真刃も不安そうな顔になる。悪魔で不安そうな、ではあるが。感情を失った真刃の表情は、決して情に動かされる事はない。
「いや、あの、前の学校は、その、中学が同じ奴がさ。多かったから……」
あまり歯切れの悪さに、ベッドに座る黒髪の美少女は目を細め、
「あんた、まさか……」
「そう、今の僕には、情報を提供してくれる友達が、少な過ぎるんだ……!」
ぼてっ、と彼女はベットに倒れこむ。貴矢はその大袈裟な反応に驚きつつ、慌ててフォローする。
「い、いやゼロじゃないんだ! 最高でも三人、三人はいる!」
「そーいや、友達三人っていってたわね……」
完全に呆れた様子で手で顔を覆っている真刃。
一か月経って友達三人は、確かに少ない。(これでも善処した方だ)それは認めるが、
「ゼロのお前に、そこまでの反応されたくないなぁ」
精一杯嫌味を言ってみる。もっと露骨な暴言を言われるのは覚悟の上だ。すると真刃は覆っていた手をどかし、衝撃の発言をした。
「いや。私、友達はゼロでも知り合いは多いの」
「え!?」
し、知り合い、だと…?
「何故かは知らないけど、やたら人に話かけられるのよ。男子が多いし、普段は無視してるけど」
まあ、薔が追い払ってくれるし。
寝転がったまま肩をすくめるという高等技術をやってのける真刃。
そ、そうか。いつも一緒にいて忘れていた事を、貴矢は思い出しす。
真刃って、美少女だったーー!! そりゃ声かけられまくって当然だ。僕の知らない処でそんなに話かけられていたのか。綴いわくフツメンの僕とは大違いだ。
「完璧に負けた……真刃に……」
頭を下げ、絶望に打ちひしがれるフツメン。
この時ほど、イケメンに生まれたかったと恨んだ日はないという。
「まあ、いいじゃない。これで情報の件は問題ないわ。さっそく明日から王を探すわよ」
「……僕の人格に問題がある、という事か……」
意気消沈したままの男を真刃は横目でみつつ、本日二度目の溜息をつく。
はぁ。ほんと、しょうがないんだから。
「貴矢」
真刃の鋭い声が部屋に響く。びっくりして彼の肩がはね上がった。
「はいっ!」
「ちょっとこっち来なさい」
「……?」
言われるがまま立ち上がり、ベットで寝ころぶ真刃の横に立つ。
「来たけど? ……うわっ!」
その瞬間、思いっ切り真刃に右手を引かれ、貴矢はベットに倒れこむ。到底女子とは思えないパワーだった。
すぐに体を起こすがはたから見れば、完全に貴矢が真刃を押し倒している状態である。
「えっ、ちょっ、まさは!」
逃げようとする貴矢の腕を真刃が掴む。
「痛ぅ!」
超痛かった。腕が千切れるんじゃないかと。
「ねえ、貴矢。私の目をみて」
彼の激痛など構う様子もなく、腕をつかんだまま真刃は言う。
涙目になって、ぼやけた目で言われた通りにする情けない少年。
「私たちは何で王を追ってるの?」
「え? それは……」
僕たちが王を探すわけ。そんなのいまさらだ。
「私の感情を取り戻すため、でしょ?」
貴矢が言うより早く、真刃が答える。
「そ、そうだけど……」
「でも私はあなたも、救いたい」
凛としたその音の意味が分からず、一瞬言葉が詰まる。
僕を救う……? 救うだって?
そうだ、前の学校で。
真刃は僕を守るため、感情を失った。