After School in the Dormitory1
前述の通り私立王河高校は寮制である。学校の隣に建つ二つの寮、すなわち男子寮と女子寮で生徒たちは暮らしている。普通一部屋につき二人が住むのだが、貴矢は転校してきたので、余っていた部屋を一人で使っている。それは真刃も同じらしく、時々霞や薔が訪ねてくる、と言っていた。
そして猛から話を聞いた日の放課後、真刃は貴矢の部屋にいた。
「…男子寮って女子禁制なんだけどなぁ…」
貴矢のぼやきなど、露ほどにも気に留めていない様子で、真刃はベットに寝転がっている。勿論、貴矢のベットでだ。
学校では猫を被っているいる真刃だが、貴矢の前になると素に戻る。それが若干嬉しくもある貴矢だが、もう少し学校でも自分を見せてもいいんじゃないか、とは常日頃思っている。
そんな真刃に対し彼は床にあぐら。自分の部屋だが居心地悪そうにそわそわしている。男子寮に真刃がいることがバレたら、自宅謹慎は必至だろう。
「あら、いいじゃない。他にいい場所なかったんだし、訪ねてくるような人いないでしょ? っていうか、友達いないでしょ」
「……お前と一緒にしないでくんない?」
「え、いるの? 一人?」
「そこはフツー何人か、って聞くトコだろ!? 二人いるわ!」
「うわ… 一か月たったのに二人って…ふっ」
「くぅううう…」
素の真刃は結構毒舌だ。貴矢に言い返せる言葉はない。
自慢ではないが、友達を作るのは苦手な性分だ。
「まあ、そんな下らない話より、本題に入りましょ」
「……」
お前、ホント自由だな……という言葉は飲み込んでおく。言うとまた毒を吐かれるに決まっているし、貴矢も本来の目的を見失う程、余裕があるわけでは無かった。
「ああ、今日委員長から聞いたんだけどさ」
貴矢は猛の話をかいつまんで話す。真刃はときおり頷きつつも、表情は変えずに聞いていた。そしてベットから体を起こしつつ、
「そう… つまり事件の犯人はほぼ確実に王ってわけね」
話を聞き終わった真刃は、貴矢と同じ結論を出す。
「ああ、僕もそう思う」
「で、王に目星はついてるの?」
「いや、今日知ったばっかだからさ……」
チッ、真刃が舌打ちをする。だが表情が変わっていないため、怒っているのか、そうでないのかはわからない。いや、でも怒り、なんてのは真刃には……。
「ちょっと貴矢、聞いてるの?」
自分の世界に入ろうとした貴矢を、真刃の言葉が引き留める。
「あ…う、うん」
「ふぅ、全く。で、明日からの事、決めましょ」
真刃は溜息をつき、またベットに寝転がる。
全然やる気ねえじゃん……とは思うだけ。貴矢は決して不用意なことは口にしない主義である。 「ああ、早速明日から、王は探したい。なんせ王は、全校生徒に命令を下せるからな。」
「そうね、全く関係のない二件の事件。でもこの関係なさが、すべてを物語ってるわ。まさに王の仕業ね」
そう貴矢たちは、この学校にいる王を捜して転校して来た。
王には自覚症状のある場合とない場合がある。ないならないで捜査が面倒なのだが(全校生徒の中から一人の王を見つけなくてはならない)、逆にあると今回のように力を奮いだす。こうなると少し探し出すのが容易すい。なぜなら王の力に呑まれ、性格が急に乱暴になったり、威張りちらしたりするようになるからである。ここまで露骨に豹変すれば、誰だって気づく。唯、王とは知らないだけで。
貴矢と真刃はすでに前の学校で、王捜しを経験済みであった。故に学校が、いや日本が隠匿している王の存在について、誰よりも詳しい。
王を見つけ、真刃の失ったモノ、感情を、取り戻す。これが貴矢が王を捜す理由。
王を見つけるのは貴矢に出来ても、感情を復活させるのは全てを支配する王にしか、できない。だから貴矢は探し出す。
愛する少女、真刃のために。
「だが、問題がある」
突然、貴矢が言った。
「どうしようもない、問題だ」
声の真剣さに、真刃は体を起こし彼を見る。彼は床に胡坐をかき、神妙な顔つきでこぶしを握っている。
「……まさか、まだ王の力に呑まれてないから探せない、とか言うんじゃないでしょうね」
「いや、違うんだ……実は……」