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CRANK IN 

 知りませんけど、分かってます。

 全知の魔女は自らを暗に否定した事に気づいているのか。全部を知る彼女が、『知らない』。この時点で既に風前燈は偽りの存在だ。自分で自分から知らない事を認めた。今だ貴矢の思考は混乱を極めている。何故が多過ぎて、本来の目的を見失ってしまいそうだ。

「……あら? もう一度言わせて貰うけれど……全部知ってるんじゃなかったかしら?」

 ちらりと隣を見ると、真刃も怪訝そうな顔で目の前の少女を見ている。魔女の矛盾は、人間には理解出来ないのか。

「んんー。そーなんですけどね。まぁその辺はいいでしょう、本筋に関係無いですし。で、あなたたちは何が知りたいんですか? 王についてでしょう? 王の正体、教えてあげましょうか?」

 反射的に突っぱねようとした真刃だったが、今折角の好機が訪れている状況だ。ここで拒絶するよりは早く王が誰か聞いて捕まえた方が賢明だ。この茶髪魔女に教えて貰うのは、何となく癪ではあるが。

「……教えてくれる、というなら教えて貰いましょうか? 保健室の魔女さん」

「んん! 潔いですね。そういうの好きですよ。だんまりを決め込んでいる、どっかの男の子と違って」

 顔は自分と同じ吊り目の美少女に向けたまま、目だけ隣に向ける。含まれているのは、嘲りでも誹謗でもなく、唯の興味。面白そう、それだけ。彼女の行動理念そのものである。楽しいことをする。今までも、これからも。

「んん。じゃ、わたしも帰って録画したアニメ見たいですし、手早く済ませましょうか。事件のあらましについては説明しなくて良いですね。まぜ、ん。いや、まずこの事件は王の仕業です。王が何かやらかしたんです。それくらい知っている? まぁあなた方ならそうでしょう。ではこの学校の王は誰か。勿論教えて差し上げますよ。ただし、タダではないですよ。ギブアンドテイクってご存じです? わたしは情報をギブします。あなた方は行動でテイクして下さい」

「行動……?」

 大方そんな事だろうと思っていた。何でもかんでも渡す気は無いのは、口振りやこれまでの会話からはっきりしている。しかし、私たちは魔女に行動でツケを返せと? どうせろくな内容では無いのだろうが……

「んんー、そうです。わたしの要求を果たしてくれたら、王に関する情報を提供しましょう。潔く、ね」

 風前燈から笑顔は消えない。まるで今のお喋りを楽しんでいるような。その感情を理解は出来ない真刃だが、真剣味に欠ける顔は、何所ぞにあると言われるココロに熱いものを灯した。今此処に感情豊かな非人々、一般人がいたならばその情動を、苛立ちと呼んだかもしれない。

「んん、よく聞いて下さい。一回しか言いません。……委員長会の行われる部屋に行って、全校生徒の名簿を取ってきてください」

「……? 名簿?」

「……何故だ、それを欲する理由は?」

 真刃の発した疑問に続けたのは、今まで黙っていた貴矢であった。彼にしては珍しく、詰問口調である。

「んんー、ホワイですか。……もしわたしの知らない子がいたら、困るからですよ」

「お前は、何でも知ってるんじゃないのか?」

 本日三回目となる質問を浴びせられても当の本人は素知らぬ風である。肩を竦め、ベットに座りながら言う。

「んん。そーですけど、情報漏れがあったら嫌じゃないですか。それだけです」

 如何にも『それだけ』では無い様子だが、ここで色々問詰めても何も得られないだろう。そもそも魔女は、何に対しても説明していない。苗字、王、王覇の欠片…… しかしここまで知っていると、逆に思い当たる節がある。この少女の飄々とした雰囲気、何でも知ってる。前の学校で貴矢が出会った先輩に、似ている。いや、似ているというよりそっくりだ。これは単なるカンであるが……

「んん。で、引き受けてくれますか?」

 思考を妨害するかのように言葉が割り込む。今は別の事を考えるより、目の前の事を考えなくては。真刃と目を合わせるが、どちらも目にも決断を鈍る色が映る。此処で風前燈の要求を蹴れば、僕たちの王捜しはゼロからスタートだ。反対に条件を受け、完遂すれば王捜しは飛躍的に楽になる。王がこれ以上事件を引き起こす前に、王を捕まえたい所ではあるが…… この魔女が素直に情報提供をするとは限らない。僕たちに名簿を持ってこさせ、そこで契約終了を叩きつけられる場合もある。そうなると王捜しはゼロでさらに時間を浪費してしまう。といより、名簿を持ってくるのは簡単なのか? 委員長会室なんて一介の生徒では入れない。魔女と仲が悪い猛に頼る事も出来ないし、突然名簿がほしいなんて言ったら、確実に不審に思われてしまう。さて、どうすべきか……

 

 ……と、風前燈はここまで状況を予想した。冒頭のセリフからここまで、すべて風前燈の脳内シチュエーションである。四十万貴矢、雲類鷲真刃の人間性は、あの先輩からじっくり聞いている。ここまで予想するのは彼女にとって、魔女にとって容易い。ベリーイージーである。実際には今は燈が王が分かる、といって二人が驚きに満ち溢れているところである。その数瞬の間に予測を張り巡らした。ここで止めたのは、そろそろ雲類鷲真刃からのセリフが来るからだ。さぁて、どんな言葉が紡ぎ出されるのだろう。ワクワクが止まらない。そして、形の良い唇から流れ出した響きは。

「……あら? もう一度言わせて貰うけれど……全部知ってるんじゃなかったかしら?」

 魔女は全てを知り、支配する。さながら、その立ち位置は、人間の人生を外側から見る監督者。役者は口出し出来ない、神の視点。

 まだ第一部すら、終わっていない。

「んんー。そーなんですけどね……」

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