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The Witch in Hospital ー風前と空前の絶後ー

 ぜーんぶ知ってますから!

 そんな不気味なことを言ってのけた少女は、未だカーテンの中である。いやここでは少女というより、魔女。全てを知る魔性の女。

 別にこの魔女と出会ったからでは無いのだが、関係性を見いだされても困るのだが、貴矢は全てを知ることを『罪』だと考えている。この世界に於いて何でも知っているのは不可能である。過去、現在、未来。過去の全てを知ることすら自身の記憶容量では足りないであろう。ましてや現在と未来もある。生きている限り、明日が来る。明日の情報が、増える。そうして増え続ける事象は止まらない。一時たりとも、静止はしない。世界の一日は、人間の脳では処理出来ない程、大きい。もはや全てを知る、この言葉こそおこがましい。驕りで虚偽で誇大妄想だ。だからもし、存在として全知がいるのなら、それは地球に他ならない。人間風情が地球と同等だと語るのは歩を弁えていなさ過ぎる。愚かで、罪深い。故に人は、何も知らないくらいで、丁度いい。 

 目の前の魔女は。そんな貴矢の思想と対峙する。彼女は、全知を名乗る、魔だ。

「———っ。あ、あなた! 『保健室の魔女』! カーテンの中に隠れてないで、出てきなさいよ!」

 隣で凛とした声が聞こえ、貴矢を正気に戻す。発した少女はじっとカーテンを睨み付けている。恐れている訳では無さそうだが、自分からカーテンを引っ掴まないので本能的に何か感じているのだろう。中に潜む、化け物を。

「んんー。そんなにわたしの顔を拝見したいんですか? あっ、そうか。初めましてといった通り、わたしたち初対面ですもんね。じゃっ、御披露目会といきますか」

 言うが早いがベットの上に立ち上がり、シャッとカーテンを引いた。まだ心の準備をしていなかった貴矢だが、中から出てきた人に呆気に取られる。前述の通り、魔女といっても人間であるので、ただ勝手に貴矢が気を張りすぎていただけなのだ。しかし全てを知るという事実が、彼の想像を誇大化させた。

 中から出てきた少女は……思ったより普通の子だった。茶色く染めた髪を左右に分け、二人に嬉々とした笑みを浮べている。少々吊り目なので強きな印象を受ける。目立つのはそれくらいか。普通に制服を着ているし、ピアスとか装飾品の類は一切ない。普通だ。普通っ娘である。彼女はベットから降り、二人の前に立つ。身長は真刃と同じくらいだ。お互い吊り目であることも似ているが、表情は似ても似つかない。一人は無表情の中に緊張を滲ませ、一人は裏の無い微笑み。

「んん。改めて初めまして、お二人さん」

「……は、はじめまして」

 何とか音を絞り出した貴矢だが、握る拳が震えている。目の前の少女は、普通だ。何処かですれちがっても素通りしてしえる程に。だが何かが、違う。何が、どう違う? 答えられない。応えられないが、肌で解る。此奴は、僕たちと同じステージに立っていない。もっと別の、遥かな高見から……ニンゲンを見下ろしている。

「んん? で、四十万貴矢さんと雲類鷲真刃さんが何用ですか? まさかわたしのお見舞いって訳ではないんでしょう?」

 小首を傾げながら問うてくる茶髪魔女。彼女が全知であるというならば、貴矢たちが来た理由を知らぬ訳がない。なのに敢えて聞くのは確認か。あるいは無知な僕らを見下しているのか。いや、これまでの会話から感じとれる雰囲気として、風前燈は人を見下した様に喋る人ではない。見下しているのでなく、見透かしている。

「……全部知ってるんじゃなかったかしら?」

 こんな時でも物事をハッキリ言ってしまえる真刃を貴矢は素直に関心する。どんな相手にも堂々と戦う。彼女は決して遅れをとらない。

「んん、そーですよ。でも頼み事は自分から言ってほしいってゆうか。まぁいいんですけどね」

「私たちは時間がないの。さっさと王を見つけてはっ倒さないといけないんだから。あなたが知ってる情報を教えて頂戴。全知全能の風前燈さん」

 勿論、王については知っているであろうという読みである。案外王覇の欠片とかの話は何も知らない可能性もあるが、真刃は既知である方に賭けた。此処で知らないようならば利用価値はない。あっさり、ばっさり、しっかり切り捨てる。私は今までそうして生きてきた。要らないモノは捨てる。後で尾を引かないように、徹底的に。

 真刃の思考は魔に生きる者にとっては何の意味も為さない。何故なら真刃が、そういうことを考えているであろう事も、燈は読んでいる。無表情の底にある、頑ななまでに強固な想いを、読んでいる。だから喜々として楽々と応える。怒りを亡くした魔女は、絶対に笑顔を絶やさない。

「んん。わたしは全知であっても、全能ではないですよ。因みに、わたしは王河高校の王が誰か分かっています。知りませんけど、分かってます」

 喜びに乱れ、楽しみが満ち、哀に溺れる魔女の劇場、クランクイン。

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