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OUTBREAK ーフツメンVSイケメンー

「とても面白い話をしていたよねぇ?」

「……」

 これが話の本筋か。貴矢は咄嗟に言い返す言葉がなく黙り込む。猛が言っていた森に隠すは見事に功をなさなかった。どころかめんどくさそうなやつに聞かれたものである。

「んん? 黙秘権の行使かい、四十万貴矢くん。悪いけど、キミはボクの質問に応える義務はなくとも権利がある。その権利とは決して黙ってていい権利じゃないんだよ」

「……」

 権利ならば貴矢が応えなければならないことは無いのだが。枢は性格上、貴矢は必ず返事をすると信じてやまない。信じるよりも、確信している。なぜなら大手企業の長男、 王来王家 (おくおか)枢が命じているのだから。一介の凡人である四十万貴矢が、無視をしていいはずがない。

 この場では、ボクが言ったことすべてがルールだ。

 彼の他人を徹底的に見下し道具のように扱う性質は、幼少期より続く。今の状況、会話らしき会話が成立しているのは、彼の最大級の譲歩である。悪魔でもリスナーとしての、心構えであった。しかし彼をよく知るクラスメートはこう言うに違いない。枢が人の話を聞くなんて、天地がひっくり返ってもありえない、と。

 そんな奇跡的な立場である事を露ほどにも知らない貴矢の心情は、正しく梅雨のようであった。頭を占めるのは、面倒な奴に捕まった事実だけである。このまま何も喋らなくても拉致があかないので、仕方なく貴矢は語りだす。たった今適当に考えた虚偽を。虚言を。さながら真実であるかのように、語りだす。

「……ああ。昼休みの、ね。あれは、僕の小説の設定だよ。この学校を舞台にした学園ファンタジーを書こうと思ってて、友達に意見を貰ってたんだよ」

 一点を除き、すべて嘘の塊である。貴矢自身、全部御伽噺だったら嬉しい限りだ。ちなみにただ一つの事実は、猛とは友達である。このことだけだ。

「ふぅん…… にしてはいやに凝っていたねぇ」

 薄ら笑いを消すことなく、枢は問を投げかけ続ける。枢はすべて自分の思惑通りになると信じて止まないが(根拠はある、それは自分が王来王家枢であることに他ならない)、別に気が短いわけではない。普通である。だから貴矢があからさまに適当なことを言っていても、すぐに怒ったりはしない。すぐには。

「まぁね。のちに矛盾を孕んでも嫌だし。世界観は強固なモノにしとかないと」

 教壇に立つ彼の考えなど歯牙にもかけず、嘘を吐き続ける貴矢。ただこの時、貴矢は枢の考えを視野に入れていなかった訳ではなく、完全に相手を騙せていると根拠なく確信していた。彼ら二人は想いこそ違えど、自分の能力、いや自分に過信していた。ある意味、似た者同士といえるかもしれない。

「へぇ、そうかい。じゃあ一字一句逃さず聞いていたボクは、すこし疑問をもったんだけど。聞いてもいいかな?」

「なんなりと」

 完璧に誤魔化せていると勘違いしている貴矢が、このさきなんなりでなく難ありになる事は避けられない。

「じゃあ、まず……キミがその小説を書こうとした動機を聞いてもいいかな?」

「動機?」

「ああ、何故そんな発想が生まれたんだい? 何かきっかけが?」

「……」

 そういえば、猛は聞いてこなかったな。僕が王覇の欠片を知る理由。勿論自分でそこまで辿り着く訳がない。貴矢も真刃の感情が無くなってから、ある人に聞いただけだ。自分では思いもよらないし、自分で見てこそ信用できる。……ふむ、ここは偽る必要はないだろう。

「———前の学校で親しくしてもらってた先輩が、アイデアをくれた」

「そう。じゃ、次」

 枢は笑みを崩さない。

「キミは王覇の欠片は感情を喰らうと活性化、っていってたね。そこでキミの友達が言った言葉『俺にも使えるのか』 これはどういう意味だい? ついでに感情を喰わせる方法も、教えてよ。ああ、でもネタバレになっちゃうかな?」

「———っ」

 そういえば、猛が言っていた覚えがある。なけなしの頭脳をフル回転させ、再び嘘を吐く。

「そ、それは結構真剣に話てたから、自分もキャラに入っちゃった感じかな。猛だけじゃなく、僕もね。あと王覇の使い方は、言った通りだ。企業秘密だから、僕の本が書籍化されるまで待ってくれ」

 書く気の無い本が本屋にでることはこの先決してないが、少々茶目っ気もいれてそう言った。枢は粗方満足したのか、教壇から降りる。

「オーケー、オーケー。大体分かった。四十万貴矢くんの話と」

 出口に向かいながら、振り向きざま言った。

「キミが嘘つきって事が、ね」

 しばし枢が出ていった扉を眺める貴矢。やはり陳家な嘘ではばれていたか。若干落胆する反面、嘘でなくとも、大方信じられる話じゃないしな、とも思う。結果オーライである。しかし……枢。なかなか厄介な奴が出てきたモノだ。少し話をしただけでわかる。あいつは一度も僕を人間と認識していない。人を人として扱わない。まさに王者の風格。いや、王というのも憚られる。あれは……

「何なんだろう……?」

 いい言葉が見つからない。彼を端的に表す言葉がありそうで、ここまで出かかっているのだが…… 

「……むぅ」

 思いつかない。結局思考を放棄し、鞄を持って教室を出ようとする貴矢。そんな彼を止める物が、教壇の上にあった。つい先程まで枢がいた教壇である。彼が落として行った、というよりこれは故意に置いたという表現が正しかろう。その置いてあった紙には、唯一言、

「……保健室の、魔女……」

 とだけ、書かれていた。

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