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OUTBREAK -王覇の欠片ー

 昼休み。猛と貴矢は食堂で向かい合って席を陣取っていた。綴は霞のお見舞いに保健室に行っている。「じゃ、話そうか。今起きている事件の犯人の正体を。そして、何故僕たちは高校入試を必要とせず、皆一律でこの寮制学校に来れたのかを」

 貴矢の語る内容はまだ本筋ではないし序盤も序盤なのだが、目の前の男は驚愕する。

「な、何だと!? お前、犯人が分かってるのか? しかも、この学校の実態まで知ってるのか?」

 彼の解釈だと微妙に話が異なるので、手で制しつつ一つずつ答える。

「違う。犯人の、正体、といったはずだよ。あと知ってるのは実態というより、存在理由かな」

「……?」

 まだしっくりきていないようだ。当たり前だが、お話というのは順を追わないと、理解出来ないようになっている。

「落ち着いて。これからの話はすぐには納得出来ないと思う。僕もそうだったし。かいつまんで解りやすく喋るつもりだけど、理解しようと思わずにただ聞いてくれればいいよ。始まりは、僕たちが生まれる前なんだけどね……」

 貴矢たちは現在十七歳。事は二十年前、彼らが生まれる三年前に起こる。三年前のある日、某大手研究所で実験が失敗した。研究対象だった未完成ウィルスの保管庫が爆発し、日本全土に瞬く間に広まった。

「超胡散臭いだろ?」

「ああ……」

 語り手が茶化すと現実主義者の彼はすでにキャパシティオーバーの顔をしている。だが本題はこれからだ。 

 結局ウィルスは日本人の多くに感染したらしいが、一年、二年と経ても感染者たちに症状は何も見られなかった。感染者たちには、だ。某研究機関も自身の尻拭いとして、感染者たちに気を配っていたため、三年も発見が遅れてしまった。なんと症状がでていたのは、彼らの息子、娘たちであった。そのことに気づけたのは相次ぐ保育園、幼稚園の異変であった。『一人の子が、みんなを従えている』これだけ聞くと王様ごっこでもしていたのだろう、と思われるかもしれないがこの現象は全国で起きていた。そしてこの年代の少年少女が小学校になっても、服従現象は続いた。期せずして、これは機関の研究の成果であり、予定していた規模は違えど、実験の成功を意味する。

 指揮官に忠実な兵隊を作る。来たるべき戦争に備えるための人間兵器の創造。これが彼らの、実験。

 唯一の失敗といえば規模が広がりすぎて、指揮官となるべく人材がどこにいるのか把握できなくなってしまったことに尽きる。しかも小学生高学年、中学生ともなると無為に人に命令を下したりしなくなる。完全に指揮官を見失い焦った機関は急遽、寮制の学校を作る。そこで生徒たちが隔離されている間に確保しようという魂胆だ。そして命令に従うのはウィルスがばらまかれてから、三年の間に生まれた子供。貴矢たちと一つ上の学年、一つ下の学年である。

 つまりこの学校の生徒殆どが、命令に従う下僕。

「多分、今頃学校側が躍起になって王を捜してるんだろう。今日の朝のホームルーム、先生来るの遅かっただろ?」

「あ、ああ……ん。貴矢、今言った『王』とは……?」

 猛の疑問は最もである。単なる趣味の問題なのだが、一応補足していおいた方がいいか。

「それは、ただ言い方が違うだけ。機関の人たちの言う『指揮官』と同じ意味だよ」

「ふぅん……では何故『王』などと……? 指揮官より、なんというか高貴すぎるが……」

「ああ、そうだね」

 ここまでは聞いた話。ここからは聞いた話と、体験した話。 

 王、指揮官は一度自分の力に気づくと力を乱用しだす。しかもその力は奴隷に対し、あまりにも強力過ぎる。その気になれば、道徳を破らせるなど容易い。どれだけ臨んでいないことであろうと、命令一つで意のままになる。行動、言動、意志。全てを支配される。本人は、何も知らぬまま。

「……! ってことは、先週の事件は……!」

「王が裏で糸を引いている可能性が高い。もう九十九パーセントぐらい、ね」

 本当に頭のいいやつは有り難い。これが綴や、ありえないがあの声デカ女だったりしたら一時間の昼休みでは終わらない。というか今日中に終わらない。話すのが猛で助かった。貴矢は次に来るであろう猛の言葉を待つ。彼は腕を組み、長らく黙考していたが不意に目を開けて言った。

「貴矢……期待せずに聞くが……その、王に対抗する手段だ何かないのか……?」

 やはり来ると思った。いい質問だが、また順を追わないと。

 兵士が上に反旗を翻す方法。あるにはある。そもそも何故王の命を避けられないのか。それは貴矢たちに生来植えつけられているウィルスによる。これが親玉のウィルス、すなわち『王』のウィルスと反応して行動を起こさせる。

「だから、僕は犯人を『王』って呼ぶんだ。そして僕たちにあるのは『王覇の欠片』って呼んでる」

 王の命令を退けるには、王覇の欠片を使用するしかない。理由は不明だが、王覇の欠片は人の感情を喰らうと活性化する。喜怒哀楽を食う。とはいっても普通に暮らしているのならば、なんの影響もない。また、感情が勝手に食させることもない。故に王の束縛から逃れるためには、己の感情を意図的に食べてもらう必要がある。感情を犠牲にしなければ、命令を回避出来ない。

「感情を……? なんか曖昧だな……」

「そうかな、割とはっきりしてると思うけど。今僕は簡単に犠牲に—――とか言ってるけどこれは相当に難しいし、感情を失って得られる力の継続時間はおよそ三十分しかない」

 精々半時間のために一つ失うなんてホント、代価が大き過ぎる。これが選ばれなかった者の宿命。所詮凡人に出来るのは、体を張ることだけだ。

「……それ、俺にも使えるのか?」

 力があれば、それを使用したいと思ってしまうのが人間の性。猛も類に漏れないが、こればかりは仕様がない。人は皆人との違いを求め、違いに溺れる。

「……いや、すぐには使えない」

 悪魔ですぐに使えないだけで、訓練を積めば使える。貴矢は使えるようになるまで、半年かかったが。

「……そうか」

 別段残念そうにはせずに頷く猛。貴矢の話を頭の中で整理しているのか、じっと天井をみている。

「一応聞くけど、なんか質問とかある?」

 質問も何も、そのまま受け入れるしかないような話ではあったが伝え忘れている事があるかもしれないので、念のため問うておく。猛はむーっと唸りながらも視線を戻し、

「じゃ、二、三個いいか?」

 と言った。そんなに疑問があったのか、こんな受け入れがたい話に。少し驚きながらも許可する。

「よし、まず一つ。この学校に王は何人いるんだ?」

「……ああ、言ってなかったね」

 王の分布を。王が全員で何人なのか、正確な数を貴矢は知らない。しかし王が生まれる確率は、

「一万分の一。だからおそらくこの学校に唯一人」

 完全には二人以上の場合を否定出来ないが。現に前の聖玉高には真刃が転校してきたので、一時期とはいえ王が二人存在した。

「オーケー。ひとまず安心した。二つ目だ。貴矢は『王覇の欠片』を使えるのか?」

 会話の流れから分かっているのだと思っていたが、確認のためか。貴矢は肩を竦めつつ、

「ああ」

 勿論。とだけ応えた。自分が喜怒哀楽の『怒』を喪っている事など、これから先にはどうでもよい。猛にも、詳しくは言わない。

「……ん、そうか。じゃあラストな」

 彼が根掘り葉掘り聞かなかったのは、察してくれたからだろう。やはり猛は、委員長に相応しい人だな。改めてそう思う。

「……ラストの前に……お前は何としてでも、王を見つけるんだろ」

 急に出た猛の言葉の真意が不明で、一瞬口ごもる。ん……? 何故今そんな当たり前なことを……

「あ、ああ。そうだよ」

「これがラストの質問。じゃあ見つけてから、どうするんだ?」

 昼休みが始まって、初めて閉口する貴矢。この疑問は云わば当然だ。未来の話は王を捕まえてから、と逃れたい所ではあるが、猛の顔は真剣で後には引けそうにない。しかしここ真実を言ってしまうと、今後の猛との関係に関わる。何故なら、委員長はクラス、学校を守るという公共の利益に繋がるのに対し。

貴矢は真刃の感情を取り戻すという、私欲である。二人の利益は一致しているようで一致していない。二人はいずれ、割れる。しかし何も始まっていない今、割れるのは双方に不利益だ。故に貴矢は、私欲で動く男は、何も言い返せない。

 結局、昼休み終了のチャイムがなるまで二人は無言で見つめあっていた。見る人から見ればその様子は、睨み合っているように見えたかもしれない。 

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